テレビは時間ドロボーである。疲れて家に帰ってきて、もうなんにもする気がしないときなど、ついテレビをつけると、なんだかにぎやかに騒いでいたり、その日のスポーツの結果を繰り返し映したりしているから、ぼ一っと見てしまう。見ている番組が終わると今度はもの足りなくなって、チャンネル切り賛えのコンローラーを探しだし、パッパッパッと、じつに便利に画面を変えていく。
あんまり見たいと思う番組はなくても、ピーナツを食べはじめたのと同じで、中毒に近くなっている。無いともの足りないから、画面を消さないのである。
そうやって30分単位で時間を盗まれ続けて、結局深夜の映画を見終わったら、明け方の4時に近かった、という経験がある。
それですっかり生活のリズムが狂ってしまう。目に悪い、体に悪い、アタマに悪い、などと勝手なことを言うれど、テレビ局としては、どんな手段を使っても、視聴者を画面に惹きつけておくのが商売であるから、それに引っかかるこちらが悪いのである。
翌日、人に会って、昨日のテレビの話をしてみると、みんな見ていたとみえて、じつによく話が通じる。みんな時間ドロボーにあっていたのである。その時間に頭を使って読書をする、会話を交わすというのではなく、みんな私と同じようにぼんやりして、光り輝く画面を眺めてアホになっていたのである。
逆にテレビを見ていなければ、人と話が通じない。マンガがを読んでも、ギャグが解らない、クロスワードパズルも解けないということになる。
静かに秋の月でも眺めようと、テレビを消し、電灯も消して窓を開け放つと、隣家のテレビの大音声とバカ笑いがとび込んでくる。