入団 ―― 戦魔暦九十五年 四月十日 午前十時 ―― 王都レガリア。 王都守護魔法兵団本部、鍛錬場には約五十名の真新しい制服を着た者が顔を連ねていた。 どの顔にもやる気と自信が満ち、正面に座るガストン、その傍に控えるヴィオラを見つめている。 その先頭にはリナ、そしてオルネルの姿が見える。 本日は魔法兵団の入団式。簡単な式典が終わり、任に就く前の新人が司令官であるガストンの前に立つ、初めての場である。 煌びやかな装飾の椅子に腰掛けているガストンは、過去スカウトしたオルネルを品定めするように見つめる。 鋭い眼光に捉えられながらも、オルネルは自身の過去全て、今の全てを見てもらえるように胸を張った。(なるほど、この一年でかなり鍛えたようだな。瞳から迷いが消えている。そして――) リナに視線を移す。 その手には己がアズリーに託した対の杖の一つ、炎龍の杖がしっかりと握られている。 リナから、オルネルに負けず劣らずの魔力を感じたガストン。 尖り、研磨され続けた名刀のような気合いに満ちあふれた魔力。 ガストンは思わず口を綻ばせた。 この変化にヴィオラが少し驚く。(珍しい。こんなガストン様……まるであの男を前にした時のようだ。なるほど、あの娘が今期最高の魔法士という事、ですか。確かに小柄な体躯でも他の者と引けをとらない存在感だ……) ガストンの吟味は続き、目の端に最後の一人を捉えた後、その小さな身体を支える足が前へ出る。 新兵たちは自分たちより小さなガストンに怖さを感じなくなったのか、拍子抜けとも見えるような表情を見せた。 その顔を見せなかったのは、リナとオルネルのみ。「……ふん」 ガストンが小さな鼻息を吐いた瞬間、「「っ!?」」 鍛錬場を、ガストンの片腕のヴィオラさえも青ざめるような、強力な魔力が覆う。 新兵たちが感じた魔力は、明らかに過去体感した事のない圧を含んでいた。 その圧力だけで自分たちを殺すかのような殺意。 高みから見下ろす戦慄の瞳に、新兵たちは尻餅を突き、たじろぎ、歯を鳴らした。(こ、これほどの魔力。ガストン様は一体どうやって……!) 驚くヴィオラをよそに、ガストンは最後まで揺るぎない目を見せた二人の魔法士を見る。(やはり……この二人のみか) リナとオルネル。 ほんの少しガストンの表情が和らぐ。 僅かな変化故、正面からガストンを見ていて付き合いの長いリナだけが気付く。 すぐに顔を戻し、ガストンは最後に二人をじっと見た後、「励め」とだけ呟いて去って行った。 ヴィオラはガストンの後に続きながら新兵に待機を命じた。 周りを気にするかのような小さなざわめき。 オルネルはようやく緊張を解く。「驚いたな……」「えぇ」 リナの淡々とした答えに奇異を感じたオルネル。「どうしたんだ? あんまり驚いていないって感じだな」「アイリーン先生……いえ、アイリーン様と何回も模擬戦をしたっていうのもあるんですが、やっぱり――」 続く言葉は、オルネルには酷な言葉だったのかもしれない。 しかし、リナは言った。 その背中を追い掛けるために。「アズリーさんは凄かったんだなぁって」「…………」 不思議とオルネルの心に嫉妬は生まれなかった。 リナの言葉の真意が、好意ではなく尊敬だと知っていたからである。