樽の中の水の温度に納得がいかなかったベティーは、冷えた水を桶で掬い、再び手拭いを浸す。 そしてそれで首元を拭くと、ベティーの口から異音が響く。「あ゛ぁあああああ~~~~~……」 どこから出たかわからぬ程のベティーのおっさん声に、タラヲが驚愕する。「ま、正しく銀虎だな。なんとも恐ろしい威嚇よ……!」「きんもちぃいいいいいいっ~♪」 そんなベティーの歓喜の声が響く中、洗面所にはブレイザーがやってきた。「む、いっぱいのようだな。後にするか」 屋敷とはいえ、洗面所にタラヲ含む四人もいては、流石にスペースがない。「我輩がもう終わった」「俺も出るよ」 ブレイザーに洗面所を譲るように、タラヲとアズリーが廊下に出る。 廊下から食堂に向かうアズリーとタラヲが話す。「なぁ、タラヲ? ブレイザーはベティーがいるのに、洗面所に入って来たよな?」「ベティーは女子ではない。虎だ」「そっか」 タラヲの言葉に、妙に納得してしまったアズリーだった。 食堂に着いたアズリーは、せっせと支度をする春華を見て顔を綻ばせる。 そしてそれはタラヲも同じだった。「おぉ、今日は春華かー」「ふははははっ! 食事は期待できそうだな、アズリーよっ!」「あ、アズリーさん、タラヲさん。おはようございんす」「おはよう、春華」「ふっ、ティファに怒られないために言おう! おはようと!」 三人が朝の挨拶する中、春華の背後から食器を持ってくるのは、この空間に合わない人間。「あ、おはようございます。アズリーさん、タラヲさん」「凄いな。古代の聖帝が食器運んでる……」「アズリー……さん?」「あぁ、いや。何でもない。おはよう、レオン」「ふっ、ティファに怒られないために、今一度言おう! おはようと!」「今日はたっぷり食べておかないと駄目ですからね。座って待っててください!」 と、レオンが言うも、調理場の方からイツキの声が届く。「あ、アズリーさん! ちょうどいいところに! ボイルの魔法ください!」「はいよー」「ふはははは! 我輩の煉獄ブレスを使うか、イツキッ!?」「いらないっすー」「はーい。お座りしてまーす」 調理場に向かうアズリーと、皆の邪魔にならないように食堂の隅でお座りをするタラヲ。 着々と朝食の準備が進められ、化粧をしてきたティファも、スッキリした顔のベティーもやって来る。「「皆さんおはようございまーす」」 リナとフユもやってきて、徐々に席が埋まっていく。「準備出来た、フユ?」「はい。もうバッチリです!」 気合いを込めるように小さな拳を握って見せるフユに、リナがくすりと笑う。「おはよう」 そんなリナの隣に腰を下ろしたのはリーリアだった。「「おはようございます」」 リナとフユの挨拶に頷いて応えるリーリア。「リーリアさんは準備出来ました?」「ん? 準備? 何の?」 フユと同じ質問を投げかけたリナだったが、相手が悪かったようだ。「あれ?」 するとフユがリナに耳打ちする。「多分、リーリアさんは必要ないと思います。それが日常みたいな感じで」「あぁ、そっか」 フユの言葉に納得したリナだったが、リーリアは首を傾げたまま、納得する事が出来なかった。 その会話の合間にやって来たマナが、リーリアの隣に座る。「おはようリーリア、準備出来た?」「だから何の準備なの?」 と言うリーリアに苦笑するリナとフユ。そして、フユがまたマナに耳打ちしに行く。 今度はリーリアも耳を寄せ、その内容を聞く。「何だ、その件ね」 リーリアが得心した様子で言う。 そんな四人の会話の後、アドルフとリードが話しながら食堂にやって来た。