さて、いま必要なのは休憩、そして食事だろう。 一晩戦い続け、そして僕らも限界まで体力と魔力を使い果たしている。 魔物たちの塵が落ちてこない場所まで戻った僕らは、ゴトゴトと瓦礫の破片を組み合わせる。そして2人から借りた鍋へと水を張り、上へ乗せると即席のキャンプになった。焚き木は無いので代わりに火の精霊を置くと、良い感じに熱が伝わるようだ。「良いコンロだなぁ、火力調整できるなんて。これなら時々こっちで調理しても良いかも」 つんつんと棒で火の精霊を突付きながらマリーは見上げてくる。「でも、人数分あるかしら。3人分しか持ってきていないでしょう?」「そうだねえ。雑炊にして水増ししようと考えているよ。元の味付けは濃い目だから、それほど不味くはならないと思う。ただ卵は欲しかったなぁ」 ぷつぷつと鍋の底には気泡が生まれ、湯は温度を上げてゆく。古代迷宮はそこかしこに水路があり、それほど水に困らされることは無い。となると、迷宮で調理をするのもアリかもしれない。 救出した彼らは布で離れた場所でゴシゴシと身体を拭いており、ときどき不思議そうな顔をこちらへ向けてくる。まあ、悪魔退治をしてすぐ料理を始める人も少ないか。「まさかわしの分まで分ける事になるとはのう……」 じとりと恨みがましく睨んでくるのは魔導竜ウリドラだ。近くにあった石へ座り、頬へ手を当てている。ゴシック調なドレス型の重装備をしているが、可動域が広いおかげでゆったりとくつろげるらしい。「ごめんね。代わりに明日は日本でご馳走するから」「つーん」 あれ、珍しくお冠だ。 とはいえそれ以上は反対されないので、マリーとクスリと笑ってから料理を進める。カバンからゴソゴソと取り出したのは海苔に包まれたおにぎりだ。「あら、昨日作っていたものね。薫子さんからいただいた角煮を入れているの?」「うん、角煮おにぎりだよ。雑で悪いけれど、このまま……」 ぼちゃぼちゃと鍋へ投入し、じっくり米と海苔はふやけてゆく。 角煮の汁を吸い込ませたお米は、やがて良い香りを出し始めた。ほお、とウリドラは瞳を輝かせてにじり寄ってくる。 頃合を見てかき混ぜ、そして味をひとくち確かめる。「うーん、美味しいけどやっぱり調味料が足りないや。あ、そうだ」 きょとんとマリーが不思議そうに見つめるなか、カバンからタッパーを取り出した。蓋を開くと味噌や漬物などが出てくる。「味に飽きるかなと思って持ってきたけど、試しに混ぜてみようかな」 味噌をすくい、鍋へ溶かす。 ぐるりとかき混ぜると色はわずかにキツネ色へ近づき、ぷうんと味噌の香りが溢れ出す。試しに味見をしてみると、割と良い感じに味をごまかせていた。下味も柔らかく、ひょっとしたら海苔にもダシの効果があるかもしれないと思わせる。「うっお、すげえ良い匂いが……。なんだお前ら、携帯食じゃなくて自炊してんのか?」「あ、ゼラさん。さっぱりしましたね。鍋を貸してくれてありがとうございます」