なるほど、昨日は夢の世界でたくさん働いたんだし、ゆっくり過ごすという手もあるか。「映画館にでも誘おうかなと思ったけど、それも良さそうだね。じゃあ今日はゆっくり部屋で過ご……」 話している途中で、がしっと僕の腕は握られた。見るとそこには少女の指先が掴んでおり、そして薄紫色の瞳からじっと見つめられている。 とんとんと指先から叩かれながら、柔らかそうな唇は開かれた。「待ってちょうだい、映画館というのは何かしら。だって映画は家でゆっくり見るものでしょう?」「うん、今ではそういう家庭も多いけど、映画は映画館で見るのが当たり前な時代もあったんだよ。専用の施設だからスクリーンは大きいし、音響もしっかりしているから映画を堪能できると思う」 なかには立体的に見れたり、椅子が動いたり風や水滴を吹きかける物もあるけれど、こちらはあまりお薦めしない。騒がしくてあまり映画を楽しめる環境では無いからね。 などと説明をしたのに、エルフさんも黒猫さんも瞳をキラキラさせている。「り、立体的に見えるというのは何かしら。まさか遠近感があったり、本当にそこにいるように見えるの?」「にゃううん、にゃううん?」「うん、ウリドラは何を言っているか分からないよ。それとまだ発展途上だから、どこまで満足できるかも分からないかな。あ、ちなみに猫は映画館に入れないよ」 そう伝えた瞬間、フシャア!と鳴かれて僕は驚く。 びっくりした、こんな声を聞いたのは初めてだぞ。「えーと、もちろん夢の中までウリドラを迎えに行っても構わないけど、今日は忙しいんでしょ?」 きりっとした顔で「全然平気です」という態度を示された。 あれぇ、おかしいな。向こうでは怪我人の治療をしたり、打ち上げをするために食材を用意すると聞いたのに。会場のセッティングと、それに新しい従業員が来るから教育をするとも言っていたかな。詳しく聞いていないけれど、相手は一体だれなんだろう。 怪我をした人への治療として丸一日ほど費やし、それから祝勝会をするらしい。なので明日の月曜は僕も忙しく働かされるんじゃないかな。夢の中で。 そう考えていると、子猫の頭にマリーの指が乗せられた。「ウリドラ、嘘をついてはいけないわ。私たちは映画館に行ってくるから、あなたはちゃんとお留守番をしていなさい」 その一言に、ものすごい勢いで黒猫は振り返る。まるで「裏切ったな!?」と言いたげで、たぶん実際にそう言っていたんじゃないかな。ニャーニャーぐるぐる椅子の周りを駆けているけれど、エルフさんは我関せずと素知らぬ顔だ。「仕方ないでしょう。あなたは猫ちゃんなの。人間社会のルールというのを学ぶのも大切で……あっ、こらくすぐったい! おひざの上で暴れないで頂戴!」