うん、夢の世界で盗聴していたことをようやく思い出したみたいだね。とはいえ僕らを思いやって声をかけてくれたのだし、突っ込むのはやめておこう。 ちらりと振り返れば、マリーは上機嫌で唐揚げ作りにはげんでいる。その光景が、どこか宝物のように僕の目に映った。「……大丈夫じゃ。悪いことにはならぬ。ま、それは天気予報のようなわしの勘じゃがなぁ」 ぱんぱんと肩を叩かれた。慰められたようにも激励されたようにも感じられる。思わず彼女を見つめると、にいっと男前の笑みを浮かべてくれた。「わしが言いたいのは気に病むな、ということである。病は気からと日本では言うじゃろう。いまおぬしに出来るのは、いつものようにマリーを、ついでにわしを楽しませることくらいじゃ」 すっと肩の力が抜けてゆくのを感じた。 確かに僕のできることなど少ない。食事を作り、旅行をし、そして本を読んであげるくらいだ。その合間に、彼女たちが日本で暮らしてゆける方法を考えればいい。「……一応と僕も楽しんでいるつもりだよ。それでウリドラは鳥の唐揚げを食べたことはあるのかな?」「もちろん無いし、たまらぬ匂いにそわそわしておる。さあ、馳走をはよう持てい」 さすがは竜といったところかな、僕の気を簡単に晴らしてしまうのは。しかし休んでいることを、ついにエルフさんから気づかれてしまった。非難めいた声を背に受け、僕は少しだけ慌てる。「ちょっと一廣、なにをサボっているのかしら。私だけを働かせるのなら、鳥の唐揚げを食べさせてあげませんからね」「おっとしまった。ごめんごめん、いま用意するよ」 まあ女性は強いということかな。隣へ立つと少女は頬を膨らませており、唐揚げは山と積まれつつある。そのまま隣でサラダ作りをして談笑しているうち、すぐに少女の気も晴れてしまった。