「私はここのようです」 セカンドがユカリを前にヒヤヒヤとしていた三十分ほど前。 A席と書かれた案内状を持って会場に現れたのは、叡将戦出場者、第一宮廷魔術師団の団長ゼファーと団員チェリであった。「むぅん、A席か、儂もここのようだ」 ゼファーは腕を伸ばして案内状を顔から離し、目を細めてようやくAの文字を確認する。「老眼ですかな? ゼファー殿。いやはや困りものですな、私も最近始まりましてね」「これはカサカリ殿。いやあ、お恥ずかしいところをお見せした」「歳には敵いませんなぁ。私は厄介なことに近視に加えて老眼でして、眼鏡が二つ手放せんのですよ」「ははは、儂はそろそろ腕の長さが足りなくなってきた頃合ですな」 先にA席のテーブルに着いていたのは、一閃座戦出場者カサカリ・ケララ。 ゼファーはカサカリの隣に腰かけると、楽しげに老化談義を始めた。「あら? チェリ、久しぶり。貴女もここ?」「あ、シェリィ様。お久しぶりです。はい、A席です」「ふーん、私とチェリを同じテーブルにするなんて、あいつなかなかわかってるじゃない。今日は楽しみましょ!」「はい、楽しみましょう!」 遅れてやってきたのは、霊王戦出場者シェリィ・ランバージャック。 チェリとシェリィは、セカンドにぶん殴られた一件以来、ずっと懇意である。その事実を察していたのはセカンドではなくユカリなのだが、さっそく席に着いて仲良く喋りだした二人にはもはや関係のない話。「ほう! では次の冬季が終わった後は、ムラッティ殿も共にカレーと洒落込むか」「せ、拙者、激しく参加したいのはやまやまなのですが、その、め、迷惑なのでワ~……?」「そのようなことはない。セカンド八冠も大歓迎だろう。当然、私もだ」「ほ、ほ、本当でしゅか! 失礼噛みましゅた。ぎゅほっ。せ、拙者、今から楽しみで堪りませんなぁ! いやしかし洒落た話の一つもできそうにありませんで申し訳ござりませんが……あっ、加湿器としてなら自信がありまする!」「あ、汗で加湿するのは、勘弁してくれたまえ……」「ちょ、すみません、はい、調子乗りましたです、はい……」 最後にA席へと向かって歩いてきたのは、一閃座戦出場者でありシェリィの兄ヘレス・ランバージャックと、元叡将ムラッティ・トリコローリであった。 二人は会場入り口で出くわし、ムラッティの持っている案内状がA席のものであることを目にしたヘレスが、共に行こうと誘ったのだ。 ムラッティは最初こそ盛大に挙動不審だったが、ヘレスのリードでやっとある程度の会話が成り立つようにまではなっていた。 これにてA席、全員集合である。