「殿下、私からもご慈悲を。チーラ様は私にとって本当の妹のような存在なんです。それに幼子のしたこと、どうぞご容赦下さいますようお願いします」 と必死でいってもみたけど、私が言ったことで判断を変えるような人ではないのがゲスリーだ。 しかしチーラちゃんは領主の娘で、しかも魔法使い。それにまだまだ子供。流石のゲスリーさんでも罰しにくいはず。「許すも何も、私は何もされてない。それなのに何に慈悲を与えればいい?」 想像以上に穏やかな表情と声でゲスリーがそう言うものだから、少しばかり目を丸くした。 つまり、チーラちゃんのことは不問にするってことだよね? なにこれ、優し過ぎない? ゲスリーなのに! ちょっと驚きつつもホッとした。 ゲスリーの言葉に周りの空気が和らいだのがわかる。「……ありがとうございます、殿下」 私がそういうと、殿下はじっと私の顔を見た。そして何かに気づいたような顔をして私の頬に手を添えた。「泥がついてる。飛沫が少しかかったようだ」 そう言って、私の頬についた泥水を拭ってくれた。 あまりにも優しい手つきに、さっきから私の心臓がヒヤヒヤしてるんだけど。 いやだって、こういうゲスリーは慣れない!「殿下、娘が大変失礼しました。そして殿下の寛大な御心に最大の感謝を」 すっといつの間にか近くにきていたアイリーン様がそう言った。 そしてあの気の強そうなアイリーン様が優しい笑みをうかべる。「殿下と直接お会いできて本当に良かったですわ。正直、最近の情勢のこともあって、リョウとの婚約についてはあまり良い気持ちばかりではありませんでしたの。ですが、殿下にでしたら、リョウを任せられます。誠に、ご婚約おめでとうございます」 そう言って、アイリーン様は深々と腰を曲げてゲスリーに頭を下げた。