「それでは……俺は、なんでこんな部屋へ呼ばれたんです?」「そちら様は、どのようなご用件で、このギルドへ?」「この街へ泊まろうと宿屋を探そうとしたのですが、仲間に獣人がいるので、彼等と一緒に泊まれる宿屋はないものかと――それじゃ、ギルドで聞いてみるかという話に」「そいつは難しいですね……木賃宿などの素泊まりならありますが」 俺は、席を立つと窓からギルドの裏庭を覗く――結構いいスペースがある。「ちょっと、あそこの裏庭を使わせてもらえませんかね? あのぐらいの広さがあれば、家が出せる」「家?」 俺が口に出した単語に訝しげな顔をする、ギルドマスター。「アイテムBOXに小さい家が入っているんだ」「ああ、アイテムBOX持ちだという噂も聞いてます」 もう、こんな所まで話が伝わっているのか、そりゃ居場所がバレたら王都から手紙が来てもおかしくはないよなぁ。「まさに、噂千里を走るだな」「そういう事でしたら、条件次第では、裏庭の使用を認めてもよろしいですよ」「なんだ、その条件ってのは?」「依頼を受けて頂きたい」「俺に、利点が全くないな。街を出て外で野宿する事にするか……」「ギルドマスターの権限を使って、強制する事も出来るんですよ?」「そんな事を言われてもな。シャガ討伐の時には、ダリアの腕利きの冒険者達も多数参加していたが、今は家族だけだし」「ケンイチという魔導師は、強力な鉄の召喚獣を使用出来るとの報告を受けておりますが?」「む……」 くそ、面倒だな。そこまで知られているのか。 ここで依頼を断って、後々ギルドの使用に制限が掛かったりすると面倒だ。有名になると、こういう面倒事も増えるのか。「……とりあえず話を聞くが、俺は国王陛下からの呼び出しを受けているんだぞ?」「それを押してお願いしたい」 ギルドマスターの話では、街から少々離れた所にある小さな森に遺跡があると言う。 その遺跡にゴブリンが住み着いているらしい。森から付近の村々を荒らしながら辿り着き、50匹程の子鬼が、そこを根城にしているようだ。 森から離れているこのイベリスの街には、対処出来る腕利きの冒険者がいないらしい。 ゴブリンというと、元世界では雑魚のイメージがあるが、小柄ながらパワーもスピードも普通の農民などを上まっており、中々厄介な存在のようだ。 つまりは、シャガの連中と同じぐらいの脅威度か。