制限時間、1時間。武器、なし。スキル、《精霊召喚》のみ。行けるか……?「いいや、行っちまおう」「(何? 我が出るわけではないのか?)」「(お前が暴れたら一瞬だろうが。そんなもん、つまらんぞ)」「(我が希うは、骨のある相手か)」「(俺も一緒に願っといてやるよ)」「(……ところで、地龍を相手に丸腰で何をやっておる?)」「(いや、観客の度肝を抜いてやろうと思って)」「(そうか。い、いや、まさかな……ちょっ、待て、おい! 我がセカンドよ! せめて剣くらい使え!?)」「(つまらんぞ)」「(おい、おい! よせ! 何だ、気に入ったのかその言い回し! おい!)」 俺はアンゴルモアを憑依させたまま、アースドラゴンに素手で殴りかかった。「ええええええ!?」――と。観客席のあちこちから驚愕の声が聞こえる。よかった、盛り上がったようだ。 俺のパンチはクリティカルヒットする。ダメージは《歩兵剣術》に毛が生えた程度。うーん、クリティカルでこれなら、まあ、行けなくはないだろう。 アースドラゴンは痛かったのか「グオォン!」と唸りつつ、反撃しようと体をねじった。斜め下方向に顔を逸らす。尻尾攻撃の予備動作だ。「ほっ」 俺はその場に伏せて尻尾を回避する。ブオンッと空気が切り裂かれるような音とともに軽自動車ほどのコブのついた巨大な尻尾が頭上を通り過ぎた。おー怖。 さあ、こっちのターンだ。《精霊憑依》中はAGIがクソほど高まるがゆえに瞬間移動じみた立ち回りが可能となるため、相手の攻撃を躱す際に十分な余裕がある。そして、STRも同様に高まっている。つまり、ダメージを稼ぐなら今のうちである。「オラオラオラァ!」 アースドラゴンの脚部をタコ殴りにする。ダウン値を蓄積させつつHPを削るのだ。「(間もなく切れるぞ)」 良い感じのところで、《精霊憑依》のタイムアップがやってくる。早いな、もう310秒経ったのか。次の使用が可能となるのは250秒後。それまで完全に生身だ。「ふぅ……」 憑依が解ける。急に体が重くなったように感じた。 しかし、アースドラゴンはお構いなしに襲いかかってくる。「アォン!」 間抜けに鳴いた。ブレスが来る。俺はアースドラゴンを中心に大きく円を描くように回避行動をとった。直後、アースドラゴンは口から火砕流のようなビームを吐き出す。来ると分かっていれば、避けるのは難しくない攻撃だ。 ここで憑依中なら攻撃に転じたが、あいにく後231秒は使えない。ゆえに、俺はひたすら回避に徹する。 飛び上がったら、プレスの合図。アースドラゴンの進行方向と垂直方向に走って全力で回避がベターだ。 二歩後退したら、突進の合図。ギリギリまで引きつけてから左右どちらかへ飛び退けば、追撃の恐れなく回避できる。 ……さて。そうこうしている間に、前回使用から250秒経った。「憑依」 1セット約560秒。制限時間3600秒。つまり、これを繰り返せるのは後6回半。それでアースドラゴンを倒しきれるだろうか? 感覚的にはギリ行けそう……だと、思う。こりゃ賭けだな。 良いねぇ、ひりついてきたじゃないか。「勝負だ……ッ」