大腿部に横薙ぎの大剣による《歩兵剣術》が食い込み、三歩後ずさる。 ラズベリーベルの無慈悲な追撃。《銀将剣術》と《桂馬剣術》の複合が、ガラムの腹部に突き刺さった。 間髪を容れず、ダウンしたガラムに対して大振りの《飛車剣術》を叩きつける。 大剣は重く動きが緩慢となるためにとても扱いづらいが、そのリーチと威力と衝撃は数多ある剣の中でも最大。つまりは、そこを活かせる使い方さえ発明してしまえば、理論上、最も優れた剣と言える……と、ラズベリーベルはそう考えていた。 また、成長タイプが「サポーター」の彼女は、【剣術】スキルを全て九段にしていてもSTRが非常に低い。そこを補うための大剣でもあった。「――そこまで!」 審判が判決を下す。 試合終了まで、たったの二十秒。「……つっ…………よ」 誰かが声を漏らす。 それを皮切りに、ドッ――と、観客が沸きあがる。 その圧倒的なまでの強さに、セカンド以来の喝采がラズベリーベルを称えた。 目立つ要素は揃っている。身分も、美貌も、性別も、そして実力も。 だが、その裏で、多くのタイトル戦出場者は戦慄を覚えていた。 ……計算し尽されている、と。ラズベリーベルの勝利までの道筋。試合前の会話から、間合いの詰め方、大剣を出すタイミングまで、その全てが彼女の計算だとハッキリしていた。 ステータスだけ見れば、決して強くない。むしろ一閃座戦の参加者内においては、明らかに最低値と言えた。 だからこそ、彼女は計算するのだ。徹底した情報収集のもと、えげつない勝利方法を模索し、躊躇せず実行する。 それは、勝ち方を熟知しているということ。 この場にいるセカンド以外の誰よりも、ラズベリーベルはタイトル戦というものを知っているのである。