翌日、仕事を終えてワンモアにログインすると、タイミングよく夜明けを迎えている時間帯だった。これから起きて食事をして、二が武に出発するには実にいいタイミングだろう。装備を整えて出発の準備をし、忘れ物をしてないことを確認してから部屋を出る。
「おはよう、良く休めたかい?」
「おはようございます、お陰様で。鍵をお返ししますね」
部屋の鍵を返却して、女将さんの用意してくれたごはんを食べる。今日の味噌汁は豆腐とワカメか……シンプルだが、実に美味しい。
「また顔を出しにおいでよ。待ってるからさ」
「はい、またいずれ」
食事を終えて宿を出る寸前、そんな言葉とともに女将さんに見送られて出発する。外に出ると同時に外套のフード部分を顔にかけ、フェンリルの頬当てを装着してから町の外を目指す。街の様子も伺ってみるが、さすがに戦場から遠かったからか戦争による影響は比較的小さいようだ。以前来た時と変わらぬ活気がある。
そんな街の様子を見届けた後、一が武を自分は後にした。二が武を目指すにはあの細い上り道を登らねばならない。以前はピカーシャが自分のそばに居たが、今は本当の一人旅だ。あの青い姿が近くに居ないというだけで、これだけ寂しいと思う物か……。やはり一匹狼なんてのは負けの代名詞か。
余計な蛇足になるが、狼というのは仲間を非常に大事にするし、生まれた子供を群れ全員で育てるという風習があるようだ。情が深いと言ってもいい。そんな狼の世界で一匹だけで行動する狼というのは、よほど群れの中で何らかの大きな問題を起こした狼だけらしい。当然狩りだって群れで協力してやるべき事であり、一匹ではいい獲物を狩ることはまず出来ない。獲物が狩れないということは食事ができないということであり、当然その先にあるものは餓死という結末。こういった事実から考えると、一匹狼なんていう称号は負け犬の称号と言っても間違いではないだろう。言葉の響きは格好が良いように聞こえるだけになおさら質が悪いが。
そんなどうでもいい事を考えているうちに、一が武と二が武の中間地点を担当している関所が見えてきた。並んでいる人も今日は非常に少ないしすぐに関所を通過することができるだろう。それから二分ぐらい後に自分の番が回ってきたので松の通行手形をお役人様に提出したのだが、ここで質問を受けた。
「ふむ、手形は問題なし。では汝は何のためにこの先を目指す?」
隠すことでもないので、今回の目的をお役人様に告げた。
「はい、龍の儀に挑みに参ります。一度目は失敗しましたので、一度龍の国を離れて修練をしてきました。そうして力を付け直してきましたので、もう一度挑むために先に進む必要があるのです」