私は、もらった花束を私の侍女としてついてきてくれるアズールさんに託すと、城のような豪奢な建物で迎え出てくれた領主夫婦に微笑を向ける。 私はゲスリーと一緒にお出迎えしてくれたスピーリア伯爵のご夫婦に対応しなければならない。 メッセージは気になるけれど、今は後回し。 出迎えてくれたスピーリア伯爵夫婦は、旦那さんが現スピーリア伯爵で、魔術師様。 あご下に美髭を蓄えた凛々しい御仁だ。 隣の奥様は清楚な見た目の美しい方で、ご主人よりも年上に見える。 おそらく実際の年齢はご主人と奥様でそう変わらないのだろう。魔術師は老けにくいからどうしてもそうなってしまう。 それにしても、魔法使いの若々しさを見るたびに生物魔法が使える私は、老けにくくなるのかどうか地味に気になる。 スピーリア伯爵の挨拶は、おもにゲスリーが相手をしてくれたので、私は笑顔でうふふと可憐に笑う仕事に集中した。 ゲスリーは外面はすこぶる良いので問題なく伯爵様との挨拶を終えると、伯爵家の息子のレオナルドさんが、これから私達が泊まる宿の案内役を引き受けてくれた。「お二人の門出にふさわしいお部屋を用意しました。気に入っていただけると嬉しいですが」 と和やかにレオナルドさんは言って豪華な部屋を案内してくれた。 王族のシンボルカラーである紫を基調にした部屋だ。濃紫のカーテンには、金糸で華やかな花や鳥の模様が刺繍されている。 落ち着いた色の絨毯は見るだけでふかふかなんだろうと分かるような代物。 テーブルや椅子といった家具においても、精密な文様が彫られており、芸術作品の域に達しているように思える。 王族であるゲスリーにふさわしいものをと思って、用意してくれたんだろうなというのは分かった。 そして、ふと、先ほどのレオナルドさんの言葉を思い出して、嫌な予感がした。 さっき、お二人の門出にふさわしい部屋をと言われたのだけど、まさか、この部屋って、二人の部屋ってことだろうか……。まさかのまさかだけど、私とヘンリーで同じ部屋に泊まれってことなのだろうか……。「まあ! 本当に素敵なお部屋ですね、殿下。私のお部屋はどのような内装なのかしら。ふふ」 と、私は可憐な笑顔を貼り付けたままそう言う。 私用の部屋ももちろんあるんだよね? という無言の圧力をかけると、レオナルドさんは、私の言葉が冗談のように聞こえたのか、にっこり笑いながら顔を向ける。「まさか、お二人の仲をわざわざ引き裂くような無粋な真似はできませんよ。こちらのお部屋はお二人のための部屋でございます。ベッドも十分な広さですよ」 と言って、ハハハと爽やかに笑った。 私は可憐な笑顔のまま固まった。 え、なに言ってんの、この人。 正気か、という眼差しで見つめてみるが、レオナルドは私が言わんとしていることを全く察してくれない。 別の部屋を用意してほしい! と、はっきりと言うべきか少々迷って、しょうがなくゲスリーに目を向けた。 ゲスリーだっていやなはず。 ほら、ゲスリー殿下。あんなことを言う奴がおりますよ、いつもみたいにゲスってやってくださいよ。 という目線を送ってみたところ、私の言わんとしていることを察したのか、柔らかく微笑んだ。「ご苦労だったね。長旅で私の婚約者は随分と疲れているようだ。早速用意してくれた部屋を使って休ませてもらおう」 ゲスリーはまるで私の婚約者みたいなことを言って、さわやかーな笑顔を伯爵家の息子に向ける。 あ、そういえばこいつ、みたいじゃなくて私の婚約者だったか。 とか暢気に思ってる場合じゃない。 違う。私が言ってほしい言葉と違うよ、このゲスリー!「それでは、しばらくごゆるりとお過ごしください。何かあればベルでお呼びください。私どもの使用人がそばにおりますので」 と言って、レオナルドは若い者同士でゆっくりみたいなことをいう仲人の顔をして去っていった。リョウの貞操の危機!?のところ失礼します!お知らせです!なんと!転生少女の履歴書8巻が5月30日(木)に発売予定!現在予約受付中です!かなり加筆しておりますので、書籍版もお楽しみいただけますと嬉しみです!それにしても8巻……!いつも応援くださいまして誠にありがとうございます…!今後ともよろしくお願い致します!