す、すげーですっ! こんなに大きいモンスターを、タラヲさんとマイガーさんだけで倒してしまったっす!?」 喜ぶイツキに、タラヲは鋭い視線を送った。「うぇっ? 私何か悪い事言いましたか?」「イツキ、本来であれば我輩一人で倒せていたところだ」「はんっ、そうだぜ! 俺様が一人いりゃ、こんなやつの一匹や二匹、軽くひねてやったぜ」 鼻高々に言ったマイガーに、タラヲが食ってかかる。「貴様! 我輩の手柄だったはずだぞ!」「てめぇなんかいなくたって俺様一人で余裕だったっつーの!」「ほぉ!? ならばこの場で試してみるか!?」「おぅおぅ、やったらぁ!」 タラヲが牙を向きだしにし、闘争心を全面に見せる。 マイガーも、余力のない身体に鞭を打つように気迫を見せる。 慌てるイツキが仲裁に入ろうとしたその時――、「んぉ!? カッハッ! ……がぁっ!?」 突然タラヲがうめき声をあげ、苦しみ出した。「……? お、おい……てめぇ! おい、糞チビ!」 マイガーの声など届いていないような苦悶の表情に、イツキも腰をぺたんと落とす。「マ、ママ、マイガーさん! ……タラヲさんどうしちゃったんですかっ!?」「し、知るかよ! きっと瓦礫に埋まってる間に瓦礫でも食っちまったんだろっ!?」 そんなやりとりの中、タラヲの身体に変化が見える。 赤黒い巨体は白に染まり縮んでいく。 苦しみ藻掻き、頭を振り払うタラヲを前に、イツキが何かを思い出すように言った。「あ、そうだったっす」「何だっ?」 顔を向けるマイガーに、イツキが人差し指を立てる。「『タラヲが困ったらこれを飲ませてくれ。効能時間は約五分だから注意するように』ってアズリーさんが……」「あぁっ!? どういうこった!?」「ぎにゅぁあああああああああああああっ!?」 タラヲが悲痛な叫び声を漏らした時、マイガーも気付いたのだ。 いつものタラヲの声に戻っていたと。 ガラスが割れるような、しかしそれよりも低く鈍い音が辺りに響くと、タラヲの身体は青い光に包まれていった。 そして光が溶け、二人の目に映っていた残光すらも消えると、姿を現したのは小さな……――チワワーヌ。「……ぬぅ……」 目を丸くしたイツキとマイガー。 自身の肉球をじーっと見つめ、慣れない……しかし最近慣れ始めた大きな世界を肌で感じるタラヲ。「「ぷっ……アッハッハッハッハッハ!!」」 イツキとマイガーが、一拍の後放出した大きな笑い声。 指を、前脚を指され地をバシバシ叩く二人に、タラヲはじとりと厳しい視線を向ける。「ハッハッハッハ! おら、いっちょやってやってもいいんだぜ!? 今なら負けてやるよ! ハッハッハッハッハ!」 口を押さえ、腹を押さえるイツキに、爆笑するマイガー。 その笑い声でようやく目を覚ますオルネル、ティファ、ナツ。「……なんで……双黒龍が?」「何があったの?」「ほえ?」 周りの変化と違和感に付いていけない三人を前に、マイガーは延々と笑い続けた。「……解せぬ」 俯くタラヲに、ティファが立ち上がり近づく。 いつものキツい視線だが、その色は少しの疑問に染まっている。「何があったのタラヲ?」 主の声を聞き、その顔を見上げるタラヲ。 傷ついた顔、そしてボロボロの衣服。目を落とし、ティファがちゃんと立っている姿を確認したタラヲは、大きく溜め息を吐いた。「何でもないぞ、ティファよ」