「ヴォーグさぁ、そんな鍛錬して何の意味があるわけぇ?」「お黙りなさい、サラマンダラ。送還されたいのかしら?」「おおっとご勘弁。体がなまってしょうがねぇから、前日くらいは運動させてくれよ」 王都から少し離れた森の中。絶世の美女という表現では足りないほどに美しい、ワインレッドの長髪を腰まで伸ばしたエルフの女と、真紅の瞳に燃え盛る炎のような赤い髪をした美形の男の姿があった。 夜だというのに、二人の周辺は昼間のように明るい。 それは、その真紅の男の全身が炎のようにゆらめき輝いているからである。「……!? な、何をしているの!」「んー? あ、悪ぃ悪ぃ」 ヴォーグと呼ばれた女が、突如として声を荒げた。 彼女の視線の先には、メラメラと燃える草木。 サラマンダラと呼ばれた男は、今気付いたとばかりにとぼけた顔をして、ぽりぽりと後頭部を掻く。「つい張り切ってよ、漏れ出しちまったぜ。なんせ随分と久々だからなぁ」「即刻、抑えなさい! 森で火属性魔術を使うなど、言語道断よ!」「はいはい……ったくクソ真面目だなぁ」 ヴォーグは説教しながら、《水属性・弐ノ型》を詠唱して放つ。しかし、なかなか鎮火しない。 ならばと、彼女は次いで《水属性・肆ノ型》を放った。次の瞬間、火は樹木ごと完全に潰れて消え去る。「ヒューッ! 悪くねぇ威力だな」「誰の尻拭いをしていると思っているのかしら。反省の色を感じないわね」「あぁー? オレがいなきゃ何もできねぇガキがよく言うぜ」「私はもう144よ。いつまでも子供ではないわ」「オレにとっちゃあ、お前はいつまで経ってもウジウジメソメソ気に食わねぇクソガキだ」「はぁ。だから私、貴方って嫌いなのよ……」 サラマンダラへ不愉快そうな表情を向けてから、ヴォーグは自己鍛錬に戻る。「――はッ!」 出現した魔物、アッシュスライムへ向けて……一閃。 彼女の剣は、アッシュスライムを一撃で斬り伏せた。【剣術】スキルを、使うことなく。「剣なんか練習したところで、意味ねぇと思うけどなぁオレはよぉ」「召喚術師は自身が弱点。そこを狙われて困るようでは、霊王には相応しくないわ」「……なぁクソ真面目。言っておくけどよ」「何かしら?」「お前の出番なんて、過去現在未来、一回もねぇから。誰にもオレの楽しみは奪わせねぇ。敵は、オレが、単独で、全部、片付ける。そうだろぉ?」