「こんにちは!」「いらっしゃい、アイラちゃん」 研究所でご飯が炊けるようになった数日後。 時刻はお昼時。 研究所にアイラちゃんがやって来た。 今日はお米を使った料理を作る予定なので、ランチに誘ったのだ。 ご飯が食べられると聞いたアイラちゃんは、即座に頷いてくれたわ。 初回に炊いたご飯は、その日の夜にアイラちゃんにも届けた。 宮廷魔道師団の宿舎へと届けに行ったのは、おむすびと味噌汁。 渡したバスケットを不思議そうに見ていたアイラちゃんは、バスケットに掛けられた布を外した途端に、大きく目を見開いた。 そのまま、驚いた表情で私を見るから、よかったら一緒に食べないかって誘ったのよ。 そして、アイラちゃんの部屋で二人でおむすびと味噌汁を食べた。 遠い故郷のことを話しながら食べたのだけど、味見したときよりも、しょっぱく感じた。「今日のメニューは何ですか?」「今日は混ぜ寿司よ」「お寿司!? え? できるんですか?」「お酢が米酢じゃないから少し風味が違うんだけどね」「それでも楽しみです!」 嬉しそうに笑うアイラちゃんと一緒に、食堂へと向かう。 アイラちゃんに伝えた通り、今日のメニューはちらし寿司だ。 米酢の代わりにワインビネガーを使っているので、期待していた風味ではない。 けれども、悪くない物ができたんじゃないかとは思う。 具は、牛蒡とニンジン、モルゲンハーフェンから買ってきた白身魚の干物だ。 上に乗せる錦糸卵も忘れてはいけないわね。 ちなみに、牛蒡は所長が育てている薬草畑から分けてもらった物だったりする。 外国から入ってきた薬草ってことで、所長が育ててたのよ。 気付いたのは去年の今頃だったかな? 収穫された牛蒡を見て驚いた。 日本では野菜として食べてたって伝えたら、所長の方が驚いてたけど。 お米と味噌が見つかったし、来年から食材として少し多めに育ててもらえないか、所長にお願いしてみようかな? 食堂でテーブルに着席すると、料理人さんがにこやかに料理を運んで来てくれた。 好奇心旺盛な料理人さん達は、新しい食材であるお米を使った料理を知る機会が出来て、とても機嫌がいい。 混ぜ寿司と味噌汁を前に、アイラちゃんの目も輝いた。 待ち切れないようだったので、すぐにいただきますと挨拶をする。「こういうお寿司って、小さい頃食べて以来です」「そうなの?」「はい。雛祭りのときに、母がお店で買ってきてくれて。小学校一、二年生くらいまででしたけど」「あー、うちも雛祭りのときに祖母が作ってくれたわね。雛祭り以外の時にも偶に作ってくれたかな」 アイラちゃんと話しながら、祖母のことを思い出して、ちょっと涙腺にきた。 いかん、いかん。 落ち着こう。 周りに分からないように深呼吸をして、気を落ち着かせる。 涙が引っ込んだところで、スープカップを持ち上げた。 祖母が作ってくれたときは、大抵お吸い物が付いていたのだけど、今日付いているのは味噌汁だ。 塩だけでもお吸い物は作れそうだけど、醤油がないと物足りない気がしてね。 醤油さえあれば再現はできるんだけど。 味噌があるなら、醤油もありそうよね。 ザイデラにないか、後でオスカーさんにでもお願いして探してもらおう。「美味しかったです!」「良かった」 しっかりと完食してくれた後、アイラちゃんは弾ける笑顔でお礼を言ってくれた。 寿司酢に使ったワインビネガーに一抹の不安はあったけど、問題なかったようだ。 アイラちゃんはこの後も仕事があるというので、おやつにどうぞとパウンドケーキを渡して、別れた。 パウンドケーキは宮廷魔道師団の人達に人気らしい。 取り合いになりそうだと言われたので、数本まとめて渡しておいた。 アイラちゃんは恐縮してたけど、大丈夫よ。 パウンドケーキはいつも多めに作ってあるもの。 そして翌日。 研究所に思わぬ客が来た。