これはお姉ちゃんにも話した事がないけど――桜の目はどうしてかわからないけど、昔から人の考えてる事とその人が良い人かどうかが、なんとなくわかるの。 今まで――その判断が間違った事はなかったと思う。 そしてさっきの人は、明らかに下心をもってた。 だから、桜は逃げるの。 変な目で見られるのも嫌だし、言葉を交わすのが怖いから……。「あ――桃井妹、そんなに走ると危ないよ?」 そう言って、桜の目の前に金髪のお姉さんが現れた。「海斗のとこに行くの?」「はい……」 桜はお姉さんの質問に頷くと、お姉さんの顔をジーっと見る。 ……多分……大丈夫……。 このお姉さんはいつもお兄ちゃんの横に居る、西条先輩と言う学校一のお金持ちの先輩だった。 初めて見た時、桜はこの人の事を気持ち悪い――壊れているとさえ思った。 お兄ちゃんへの好意に隠された憎悪、後悔、喜び、至福、嫌悪。 そう言った感情が、このお姉さんの中には渦巻いているように見えた。 もっとも激しかったのは、憎悪だった。 ただ、それがお兄ちゃんに向けられていたわけではない。 一体誰に向けられているのか――それは桜にもわからなかったけど、この人は危険と言う事だけはわかった。 でも、今はそんなのが感じられない。 ……ううん、少し憎悪と嫌悪の色は見える。 だけど、そんなのは誰でも持ってると思った。 桜の大好きなお兄ちゃんでさえ、たまにその色は見せる。 それでも桜が大丈夫だと判断したのは、このお姉さんが良い人だと私の目が判断してたから。 前に見た時は明らかに悪い人って感じだった。 何があったのかはわからないけど、お兄ちゃんが絡んでいる事だけは間違いないと思う。 ……お兄ちゃん、このお姉さんに『傍に居たいなら居て良い』って言ったらしいの……。 お兄ちゃんの傍は桜の特等席なのに……。 でも、この人が別に桜達に何もしてこないのなら、それでも良いと思ったの。 みんな仲良くが、一番幸せだから。 だけど……どうしてかな……? お兄ちゃんがこのお姉さんや、桜のお姉ちゃんと一緒に話してると、少し胸がズキっとする事があるの……。 お兄ちゃんもお姉ちゃん達も仲良く話してるだけだから、別に心配する事なんてあるはずないのに……。 何かの病気なのかな……? ……こわいなぁ……。 でも、そんな痛みもお兄ちゃんと話してたら全く気にならない。 それに、お兄ちゃんは傍に居るだけで甘やかしてくれるから、凄く幸せな気分になれる。 だから、今日もお兄ちゃんに会いに行こう――と。 ――桜はそう思いながら、金髪のお姉さんと一緒にお兄ちゃんの元に向かうのだった――。