夕飯を食べ終え寝る支度を整えた奏は獪岳の部屋へと向かっていた。扉を叩くと「なんだ」と短い問いが返ってくる。開けてもいいという合図だと判断し扉を開くと、獪岳は机に向かって仕事をしていた。こちらに目を向けない獪岳に今回はいつまでいるのか尋ねると、顔をパソコンに向けたまま2カ月ぐらいだと答えが返ってきた。「今回は長いんだな」「まぁな。で、本題はなんだ」「稽古をつけてほしい」簡潔に頼むと、獪岳はようやく体をこちらへと向けた。「ふん…いいだろう。どれくらい物になったか見てやる」「ありがとう。頼んだ」鼻を鳴らす獪岳にお礼を言い扉を閉める。自分は会ったことがないが、善逸と獪岳の祖父は剣術場の師範をしているらしい。その影響で、二人は幼少の頃より祖父を師範に剣術を修めていたのだと聞いた。今は二人とも本気で技を磨いているわけではない。特に善逸に関しては、もう何年も竹刀を握ってないという。獪岳に関しては、時折気分転換もかねて竹刀を振っている。たまたまそれを見かけた奏が獪岳に頼み込み、この家に滞在している間だけ稽古をつけてもらえるようになった。稽古は楽しい。強くなれるのは嬉しい。しかし、いつまでたっても獪岳に勝てないのは悔しい。「明日こそ、一本とってやる…」奏は強く拳を握りしめた。