「上出来だ。白兎、俺と取引しないか?」「取引? その内容は?」 白兎は俺が取引と言った事に別段驚いた様子は見せず、そう首を傾げた。 今の話の流れからこうなると予想していたのかもしれない。 そうとなれば、中々頭の回転が速い人間だ。「タイミングは俺が指示をするが――俺の用意する十万でこの会社の株を買ってほしい」「君が株の流れを読むの? 僕じゃなく?」 白兎はそう言って、怪訝な表情をした。 それもそうだろう。 白兎本人からすれば、ずっと株をしてきたのだし、株の流れを読む力は俺よりもあると思っている。 そして、それは正しい。 だけど、今回はその役目を雲母がする。 なのにどうして彼に頼みに来たかと言うと――KAIの隠れ蓑にする為だ。 今回の株を買う時にKAIが関わった事が確定してしまうと、インサイダー取引が成立してしまう。 KAIの正体は誰にも掴めない。 だが、確実ではない。 万が一俺がKAIだと立証されれば、俺が株の購入に関与した時点でインサイダー取引は成立してしまう。 だから、先程の白兎の読みの力を試した。 あれだけきちんと読めているのなら、俺がアリアの戦略を見抜いたがどの平等院財閥の株かわからなかったという時点で、雲母に対する俺の関与は終わる。 そして学校で株の知識に定評がある白兎に、さっき俺がした話を俺じゃなく雲母が相談したという形をとり、アリアの買う株を予想したとするのが俺の狙いだ。 当然、アリアは納得しないだろうが、筋が通れば問題ない。 白兎の様な人間がいなければ、西条がアリアの買う株を予想出来た理由して、平等院財閥の関係者もしくは、それに携わったKAIの存在が確実に疑われる。 そしてそれが俺だと分かる可能性は高くないが、絶対ではない。 それにアリスさんが俺の事をカイと呼んでいる事と、アリアが俺とまた話がしたいと言ってきた事から、俺と言う存在がアリアの頭の中で引っかかっているのは間違いない。 そんな中俺が西条と共に行動をしていれば、真っ先に俺――強しいてはKAIの存在が疑われるだろう。 しかしここで白兎を用意する事によって、こちらは白兎のおかげで予想できたと主張できる。 だから、どれだけアリアがKAIの事を主張したとしても、こちらが株の購入自体にKAIが関わっていた事を認めなければ問題ない。 株の購入にKAIが関わったという決定的な証拠が出て来なければ、購入以外にもしKAIが関わっていても、それはインサイダー取引ではないからだ。