ただ、正平は妻を末期がんで亡くしており、その傷からまだ癒えていない。その時の主治医も弟である隆であり、声には出さないとはいえ、妻を救えなかったことを今でも悔いている。
兄は弟を思って口に出さないのかもしれないけど、それ故に兄弟の関係でありながら、2人の間には繋がりがあるようでない。本当は心が繋がっているはずの兄弟が、どことなくぎくしゃくしているところに、2人に関わる関係性で柚子が入ってくる。柚子は正平とも繋がろうとし、隆とも繋がろうとする。正平とは能動的に、隆とは消極的にという違いはあっても。
この作品にとっての繋がりは「過去」と「現在」と「未来」のそれぞれでの繋がり、また「過去」と「現在」と「未来」それぞれの繋がりでもあって。
過去の妻との繋がりを忘れられない正平と心で繋がろうとする柚子にとって、その「過去」を否定しないことでしか正平と繋がることはできないのだろうなと思うし。
そうでないと正平はまた昔と同じ道を歩んでしまうのだろうなと思うし。