結構笑う子なんだな……。 俺はアリスさんの表情を見てそう思った。 勝手な思い込みではあったが、アリスさんという女の子はポーカーフェイスな表情ばかりをすると思っていた。 しかし、この少ないやり取りの間でアリスさんは何度も笑顔を見せている。 だから、本当は表情豊かな子なのかもしれない。「――ねぇ」 俺達のやり取りが終わったのを確認して、アリアさんが声を掛けてきた。「なんでしょうか?」「あなた、名前は?」 名前か……。 出来ればこの人には知られたくないが――アリスさんに答えてるんだから、どうせ変わらないよな……。「神崎海斗です」「そう……。覚えておくわ」 俺の名前を聞いたアリアさんは、なんだか肩からかけている自分のポーチを開けてゴソゴソとし始めた。 そんなアリアさんに俺はこう思う。『いえ、覚えてくれなくていいです』っと。 だって、この人は攻撃的な性格で知られているんだぞ? それは俺が万が一にでも関わりたくない性格の人間だ。 そして、この人はKAIの事について知っている。 気まぐれで俺の事について調べられたりすれば、ひょんなことから俺がKAIだという事がバレかねない。 そんな事になればこの人が黙っているはずもなく、俺が苦労させられるのは目に見えているだろう……。「はいこれ、私の名刺。また時間がある時に連絡を頂戴。あなたとは今度ゆっくり話がしてみたいわ」 そう言ってアリアさんが、ポーチから取り出した名刺入れから名刺を抜き取り、俺に渡してきた。「は、はぁ……」 俺は戸惑いがちにそれを受け取る。 なんでいきなり名刺を渡されたんだ? もしかして、アリスさんが『カイ』と呼んだ事で俺がKAIかもしれないと思ってる……? ……いや、それならアリアさんはもっとグイグイきているだろう。 これは、ネットで噂されるアリアさんの性格が誇張されているとかではない。 テレビでの話し方や言葉の選び方から、この人は噂通りの人間で間違いないと俺は結論づけていた。 だから、俺がKAIとは気づいていないのだと思う。 だが――だとすれば、なんで今度話がしたいとか言ってくる……?「じゃあ、私達はもう帰るから」「バイバイ……」「あ、はい、さようなら」 俺が考え込んでいると、アリアさん達は挨拶をして踵きびすを返してしまった。 俺はその後も西条と合流するまでの間、アリアさんの思惑を考え続けるのだった――。