「俺たちが来るまで……? 俺たちが来たからヘンリー殿下の護衛にカイン兄様はもどらないといけないってことか?」「そういうことです。ヘンリー殿下のお気に入りですからね」「そうか、カイン兄様は魅力的な人だから、リョウの側につかせるのは嫌なのかもしれないな……。ヘンリー殿下の気持ちも分からなくもない」 そう言ってアランは真面目な顔で頷いた。 そうそう、お気に入りのカイン様を手放したくないようでね、あのゲスリーさんは。 それにしてもアランも、気持ちが分からなくもないだなんて……流石にブラコン過ぎない? いや、あいかわらず仲が良くて微笑ましく思う気持ちもあるけどさ。 と、ブラコンアランの変わらずのブラコンぶりに生暖かい視線を向ける。 私にそんな視線を向けられていることに気づかないアランは、何か覚悟をしたような顔で私の方を見た。「だが、リョウを守るためには一人でも信頼の置ける戦士は必要だ。カイン兄様のことは直接ヘンリー殿下と交渉してみる」「直接……?」「俺はこれでも殿下の甥でもあるし、レインフォレスト領の跡取りということにはなっている。殿下も聞き入れてくれるはずだ」 あ、そういえば、アランさんって殿下の甥だった。アランのお父さんは十何番目かの前王の子供だ。 本当に、改めて思うけれどアランってすごい血筋だな。 直接交渉すると言ったアランが気になったけれど、その後はこれまでの近況などを話してランチミーティングを終えたのだった。◆「久し振りにアラン様を見ましたけれど、たくましくなられましたね」 早速交渉に行ってくる、と言って殿下の方に行ってしまったアランの代わりにシャルちゃんがお茶に付き合ってくれた。「やっぱり、そうですよね。なんだか、大人っぽくなったような感じがして……」 そう言って、先ほどのアランの様子を思い出す。そう大人っぽくなった。でもそれだけじゃなくて……なんだろう。「アランじゃないみたいで緊張してしまいました」 結局どう表現すればいいのか思い当たらなかったので、緊張したということにした。 シャルちゃんは私の話を聞いて頷く。「ふふ、リョウ様でも緊張することがあるのですね」 と可憐に笑うシャルちゃんの笑顔に癒される。 そのタイミングで鼻腔にかぐわしい紅茶の香りが漂ってきた。給仕を買って出てくれたアズールさんが紅茶をサーブしてくれたのだ。 毒殺などを気にしてアズールさんが結構色々と世話を焼いてくれている。 騎士としても侍女としても優秀すぎて私にはもったいないぐらい。 そしてアズールさんにお茶のお礼をいうと、私の護衛にすでに勝手に内定している二人に、先ほどアランと話した内容を共有することにした。 つまり、私の命を狙う相手が剣聖の騎士団かもしれなくて、王国騎士に裏切り者がいるかもしれないこと。そのため、二人には私の護衛としてそばにいてもらうことになるということ。 頼んどいてなんだけど、結構危険なお願いだというのに、二人は笑顔で了承してくれた。「リョウ様は、少し変わられましたね」 シャルちゃんがポツリとそんなことを言う。懐かしそうな優しい目で私を見るシャルちゃんに戸惑う。「そうですか?」「はい、少し前のリョウ様でしたら、きっと私達を巻き込まないようにと距離を置いて、自分一人の力でどうにかしようとしたはずです」 シャルちゃんがそう言うと、悲しそうに微笑んだ。「それはそれでリョウ様らしいと格好よく見えたりもしましたけれど、でもとても寂しかったんです。距離を置かれたみたいで」 ええ、そんな風に思ってたの!? 出会った頃は友達が欲しくてむしろシャルちゃんにはガンガンいってた気がするけれど……。「リョウ殿は今でも少し無茶をしすぎるところがありますが、以前はもっとすごかったでありますか」 とアズールさんが、感心したように言う。「そ、そんな距離を置いたつもりはなくて、寂しがらせたかったわけでもないですよ!」「ふふ、分かっています。それもリョウ様の優しさの一つだって。でも、こうやって大変な時に頼ってくださる方が、わたしは嬉しいです」 そう言ってシャルちゃんは天使の微笑みを浮かべた。 天使! 天使がいる! ここに! ここに天使がいる! シャルちゃんが天使すぎて、胸が痛い。 私とシャルちゃん、そしてアズールさんは、改めて結束を固めたのだった。