「うむ、味覚も共有しておるぞ。シャーリーが味わえば、そのぶんおぬしの味覚は薄くなる。しかし彼女の体力もつくので、身体はずっと楽になるはずじゃ」 ウリドラはお行儀悪くお箸をピッと向け、そう教えてくれた。 あ、そういう事か。どおりで味を感じられないと思ったよ。なるほど、その代わりに先ほどから感じているのは、シャーリーの「美味しい!」という感覚か。 ちらりと振り返ると、口元を肩に隠して上目遣いする彼女がいた。 申し訳なさそうな表情は、僕を気遣ってのものかな?「いやいや、せっかく日本に来たんだし、僕の分もたくさん味わって欲しいよ。さあ、どんどん食べようか」 ぱっと彼女は表情を明るくしてくれた。 言葉が通じずとも、彼女の表情はとても素直なので、何を考えているのかすぐに分かる。 食べるたびに、おいしい、おいしい、と胸の奥から感動に似たものが湧き上がり、お米粒ひとつでも丁寧に噛んでゆく。 このもちもちとした感触、それにたっぷりの甘みがたまらないらしい。 それから彼女は黄色い天ぷらをひとくち食べると、昇天するよう頬を赤くし、眉をハの字にさせていた。ほっくりとした触感といい、野菜独特の甘みといい、日本の伝統的な味付けをどうやら気に入ってくれたようだ。「ああ、これはかぼちゃって言うんだよ。野菜のひとつで、マリーと一緒に畑を作ろうかって話をしていたんだ」「そうそう、そうなの。このかぼちゃって、とても甘くて美味しいでしょう? だから、もし良ければシャーリーの森に植えられないかなって思っていたのよ」 もしも成功したら、かぼちゃを食べ放題になるからね。 たくさん収穫する時を思ってか、シャーリーからほわほわとした雰囲気が漂ってくる。そして握りこぶしを作り、こくっこくっと力強く頷いてくれた。 頬を赤くさせている様子といい、美味しいものを食べるとどこか子供っぽくなるのは不思議だね。 それと森の主から了承を受けたマリーも、ぱっと顔を明るくさせる。おかげで「やったあ」と両手をあげる可愛らしいエルフさんを眺めることができた。 上機嫌でルンルンと足を振り、それから僕に手を向けてくる。同じように手をあげると、ぱちんと良い音がリビングに響いた。