伸びをひとつする。 やはり身体は重く、だらりと無気力な伸びになった。「んー……、やっぱり会社は休もうか。でも月曜に有休を使うと、何か言われそうで嫌だな」 月曜に休むと、まるで週末に遊びすぎてしまったみたいだ。 会社勤めに慣れたせいで、そんなところを僕は気にしてしまう。ただ、月曜に休んだことはあまり無いし、そもそも有休をほとんど使わないので睨まれはしないだろうけど。 最近、職場でも少し変わってきた気がする。明るくなったとか、話しやすくなったと同僚からよく言われる。 元々、生活するため仕方なく働いていたのだし、あまり話しかけるタイプでは無かった。しかしエルフや竜、それに賑やかな人たちと夢の中で過ごすうち、小さな影響があったのかもしれない。 まあ、悪いことでは無いか。 そう思い直し、ざぶざぶと顔を洗うことにした。あまり熱も無いようだし、もし平気そうならそのまま出勤してしまおう。駄目なら午後半休でも取ればいい。 やはりぬるい水道で顔を流しても、あまり気分はスッキリしない。 うーん、顔色はそう悪くないんだけどな。洗面所の鏡を見ると、やはり眠そうな顔が映っている。 そして後ろからシャーリーが、ぽーっとした顔で覗き込んでいた。 ふわんとした半透明な姿は相変わらずで、どこか熱に浮かされたような顔をしている。鏡越しに視線を合わせても、どこか焦点の合わない様子だ。 ああそうか、僕は日本だと25歳という大人だからね。急に10歳くらい年をとったよう見えるのか。 向こうでも、子供らしくない落ち着いた口調の時もあるけど、この姿を見るのは初めてだ……し……。「んんんっっ!?」 ちょっと待て。 ちょっとだけ待とうか。まず落ち着かせて欲しい。 この歯ブラシや洗面台がある通り、僕がいるのは日本のマンションだ。それは間違いない。しかし、幽霊である彼女が家にいるのも、どうやら見間違いでは無いようだ。「え、あれ、ん? どういう事かな?」