「ふうん、そういえばマリーは恋愛小説をあまり読まないね。好みでは無いのかな?」「興味はあるけれど、わざわざ手に取るほどではないわ。人の恋愛話を聞いて何が楽しいかしら」 真っ白い髪をいじり、三つ編みにしながら答えてくる。 まあ、こんな恋愛ドラマを眺めていたら、そのわずかな興味さえ消え去ってしまうんじゃないかな。 そのとき、少女の不満を具現化したように、テレビからは薄っぺらい愛の告白が流れた。 ――待ってくれ静子さん。貴女のことだけを愛しているんだ! そんな告白へ、マリーは肩をすくめて「ほらね」と同意を求めてくる。黒猫のウリドラも同様だったらしく、呆れの息を吐いていた。「まあ、低予算のドラマだろうし、高望みをしても仕方ないんじゃないかな?」「そう言うのなら、彼と同じセリフを言ってちょうだい。きっとあなたは顔を真っ赤にし、ごめんなさいと口にするわ」 おや、退屈なせいで不機嫌だったのか無茶な振りをされてしまったぞ。 もちろん僕はそんな恥ずかしいことをしたくないので、断ろう……かと思ったけれど黒猫から促されるよう見つめられて気を変える。 退屈させていたし、小説を勧めてくれたのだからお礼を兼ねてマリーを笑わせるとしよう。 少女の華奢な手首をにぎると、三つ編みはぱらりと解けていった。「待ってくれ、マリアーベル。君のことを愛しているんだ」 あ、やっぱり眠そうな声になってしまった。 低コストドラマとはいえ、プロは違うんだなぁと変な感心をしてしまう。「おっ……!」「お?」 トーンの高い声に少女を見ると、じゅうと湯気の出そうなほどマリーは赤くなっていた。 赤みは頬から長耳まで伝染してゆき、唇は浅く短い呼吸を繰り返す。そして困ったように紫水晶じみた瞳は、横へと逃げていった。 あれ、この反応は何だろうか。てっきり笑い転げてくれると思っていたのに。 マリーは何度か呼吸を繰り返し、淡く色づいた唇をようやく開かせる。「そういうの……、ずるいわ」 ちらりと僕を見て、そう文句を言われてしまった。 そして少女は僕の肩へと顔を押し当て、高い体温を伝えてくる。けれど……どういうことかな? 冷や汗を流す僕の前に、黒猫はテーブルに座っていた。 かなり不機嫌そうに眉間へ皺を刻んでいるのは、まるで「ぶっ殺すぞ」あるいは「安っぽい台詞でこれかよ」と突っ込んでいるようにも見える。 しゅるり、と少女の三つ編みは最後までほどけてしまった。