「じゃあその講師は今どこにいるんだ!」「逃げたままじゃないか!」「信じられるものか!」 彼らも必死だった。己の命がかかっているのだ、当然である。「それは……」 チェリは言葉に詰まる。チェリ自身、セカンドが今どこで何をしているのか分からなかった。「ほら見ろ! 答えられないじゃないか!」「やはり信じられん! お前らはペテン講師に騙されたんだ!」 沈黙をいいことに、宮廷魔術師たちが息を吹き返す。 言葉は、届かなかった――チェリは目の端に悔し涙を溜めながら、絶叫する。「来ます! 必ず、来ます! 彼は逃げたんじゃない! ペテン師でもない! 絶対に、絶対に、戻ってくるんです!!」「……チェリ……」 彼女のなりふり構わない様子に、第一宮廷魔術師団の心は一丸となる。 ……しかし、彼らは分かっていた。セカンドが、今、この場に、姿を現さなければ、彼女の演説は無駄になると。それは絶望に限りなく近い希望だった。国王殺害の容疑をかけられて、敵だらけのこの場に、彼が来るはずがないのである。 もう諦めるしかない。それを分かっていながら、それでも、チェリは神頼みするように、叫び続けた。 絶対に来る。絶対に来る。絶対に来る。と。「――っ!?」 訓練所後方の壁が、轟音とともに跡形もなく破壊される。 土煙の中で、目に見えるほど大きな電撃の残留が行き場をなくして荒れ狂う。余波であるそれに触れただけで、ただの人間なら一瞬にして黒焦げになるだろうと予測できる、その馬鹿げた威力。 雷属性魔術――彼らが噂にのみ聞いていた、その幻の【魔術】が、目の前で行使された。それだけで、宮廷魔術師たちの行動は完全に停止した。 何が起きたのか、理解できた者は一人もいない。しかし、察することはできた。そう、恐らくは、《雷属性・伍ノ型》という“最大級”の【魔術】なのだと―― そして、直後。 大きな大きな風がひと撫でして、土煙が全て吹き飛び。 その中から、一人の男が姿を現した。「王国、取り戻すぞ。付いてこい」