最後の望みだ。唯一の希望だ。 勝っても負けても全てをここに賭けてやる、という不退転の覚悟だ。「お願い、届いて……っ!」 これまで積み重ねてきた全ての思いを込め、ヴォーグは駆け出した。 ……その、なけなしの思いさえ、俺は否定する。 届くわけがないのだと。そんな付け焼刃の半年間では、掠りすらしないのだと。「弐ノ型」「御意」「龍王抜刀術」「承知」 アンゴルモアへの指示。直後、《雷属性・弐ノ型》が俺の目の前へバリケードのように出現し、ヴォーグの行く手を遮った。 俺の隣では、ミロクが《龍王抜刀術》を溜めている。 非常に強力な範囲攻撃。溜めるほど、その威力は増す。「……っ!!」 雷撃が収まった頃、ヴォーグが目にしたものは……《龍王抜刀術》フルチャージのミロク。 この状況――まさに必至。 どう足掻こうと、ヴォーグを待ち構えるは、“敗北”の二文字。「…………」 沈黙が流れる。 普段の俺ならば、少しの間も置かずにミロクへと発動を命じていたことだろう。 そうして《龍王抜刀術》をエサにし、俺自身を狙ってきたヴォーグへのカウンターを準備し、鮮やかに勝利するだろう場面。 しかし、そんな甘いことはしてやらない。 ここは、ガッチリと、盤石の構えで受ける。気の遠くなるような鉄壁の守りを固める。つまりは、受け切って勝つ。目指すところは圧勝なのだ。勝負になど出てやるものか。 ゆえに、待機だ。 ヴォーグが仕掛けてきたその瞬間、もしくは《精霊憑依》が解除された時の、絶対に躱せない一瞬でのみ、ミロクに《龍王抜刀術》の発動を指示する。 それ以外の場合は、待機。いくら時間がかかろうと、待機する。 ほんの僅かな隙も見せず、ほんの欠片の勝機も与えず、完全に、安全に、圧倒的に、勝利するために。「………………」 ヴォーグは何もできず、ただ立ち尽くしていた。 いいや、できること全てをやり尽くした結果、できることがなくなったと言うべきか。 攻め入ることも、立ち向かうことも、喋ることも、聞くことも、勝ちに行くことも、負けを認めることもできない。 何もできない。 何故なら、できることを全てやって、全て駄目だったのだから。 彼女の持つ全てが、俺に圧倒的に劣っていると、一つずつ確と証明されてしまったのだから。「……………………」 そうだ、その顔だ。 悔しくて、悲しくて、どうしようもなく惨めで、いっそ死んでしまいたくなるような、その最低の気持ちだ。 自分の全てを否定される恐怖を、死にほど近い惨敗の苦痛を、心の底から味わうんだ。 そして、ヴォーグ。 俺を怨んでくれていい。 お前は、それでも這い上がれ。 どうか、どうか、この艱難辛苦を突破してほしい。 そうしたら、きっと。「……あ……」 五分が経過し、ヴォーグの《精霊憑依》が終了する。 刹那、ミロクの右手が、その腰の刀を抜き放ち――「――そこまで! 勝者、セカンド・ファーステスト霊王!」 俺の防衛が、確定した。