「さて、トランプしよう。スピードなんてどうだ?」 俺は涙に気付かぬ振りをして、2人分のトランプを配った。「すぴ……すみません、何と」「ハハ、教えてやる」「かたじけのうございます」 それから王都に着くまでの間、無心でキュベロとトランプを続けた。 結構楽しかった。以上。 ようやっと自宅に帰還する。あぁ久々の我が家だと若干の感動すら覚えていたのだが、なんと案内された先は「東の豪邸」ではなく南西にある「ヴァニラ湖畔の豪邸」であった。ちょっぴり感動が薄れる。 そうか、思い出したぞ。どうやら「季節によって豪邸を移る」という俺のアイデアを採用したみたいだな。確かに、赤と黄に紅葉した木々と青く澄んだヴァニラ湖とのコントラストが風景画のようで美しい。ナイスチョイスと言わざるを得ない。「ご主人様、お帰りなさいませ」「ただいま、ユカリ。秋はここに暮らし――おっと」 出迎えてくれたユカリは、感極まったのか俺に抱きついてきた。少々意外だったので俺は面食らった。 しばらく抱き合っていると、ユカリが先に口を開いた。「どうか、はしたない真似をお許しください。あの、私……その、安心、いたしました。話したいことがたくさんありますが、すみません、もうしばらく、このまま……」 俺のいない間、定期的に連絡を取り合っていたとはいえ、ユカリに家のことを全て任せてしまっていた。4ヶ月もだ。きっと俺の顔を見てホッとしたのだろう。俺は謝罪と感謝の念を込めて、胸に顔をうずめるユカリの後頭部をなるべく優しく撫でた。「……ふぅ。失礼いたしました、ご主人様」 それから5分ほどして体を離したユカリは、俺の知っているいつもの冷淡なユカリに戻っていた。少し恥ずかしいのか、目を合わせてくれない。「それでは早速ですが溜まりに溜まった諸問題について会議を――」「せかんどーっ!!」「ザクッ!?」 全速力で突っ込んできたエコが横っ腹に直撃して変な声が出た。別に何かが刺さった音とは違うのだよ。しかしなかなかのタックルだった。さてはこいつ成長しているな。「せかんど! おかえり! せかんど! おかえり!」 エコは俺の名前を連呼しながら尻尾をブンブン振って腰にまとわりつくように体をこすりつけてくる。手を出すとぴょんぴょん跳ねる。頭や首を撫でてやると甘えるように鳴く。猫の獣人のはずなのだが、今のところ完全に犬である。「おー、よしよし。ただいま。ん? エコお前、少し背ぇ伸びたか?」「しらん!」「そうか知らんかー。ところでそれはシルビアの真似だな? やめたほうがいいぞ」「どういう意味だ!」 おっ、噂をすれば本人登場だ。 シルビアは怒り顔でずんずんとこちらへ歩いてくる。だが、近付くにつれてその顔はだんだんと笑顔になっていった。まるで溢れ出る喜びを抑えきれないように。「……元気そうではないか、セカンド殿。心配して損をした気分だ」「そっちは面構えが変わったな。今度ダンジョンに行く時が楽しみだ」「馬鹿者、私の方が楽しみだ」「おっと、こりゃ一本取られたな」 互いに笑い合い、手をガシッと組み合い、そのまま引き合ってハグをした。シルビアとはあまりこういったスキンシップはしたことがない。だが、ついそうせずにはいられないほど心地の良い雰囲気だった。 体を離すと、シルビアは「夕飯の前に会議か?」と照れ隠しに笑いながら言った。「そうです。忙しくなりますよ」とユカリが続ける。エコはただひたすらニコニコとしていた。 そこでふと思い出す。「そういえば、皆に紹介しておかないとな。仲間が一人増えたぞ」「……ほぉ」「へぇ……」「?」 …………あれぇ? ついさっきまであんなに和やかだった雰囲気が一瞬で不倫疑惑の釈明会見ばりにピリついてるんですけど?「セカンド殿。まさか口説き落としたのではあるまいな?」「ご主人様。とりあえずその女をここに連れてきてください。話はそれからです」 何をそんなに怒っているのか、えらい剣幕で二人に詰め寄られる。口説いたのではなく肉体言語で屈服させたと言ったらシルビアはどんなリアクションをするだろうか。というか何で女って知ってんの?「待て待て、分かった。今呼ぶ」 俺は二人を下がらせて、《魔召喚》であんこだけ喚び出した。アンゴルモアは現在自宅謹慎中である。