ルナマリアを手に入れた俺の次なる標的は『隼の剣』の神官戦士イリアであった。 だが、こちらは少しばかり仕込みに時間がかかる。 長年積み重ねてきた人間関係を壊そうというのだ、今日明日というわけにいかないのは当然だった。 まあ、ラーズがとち狂ってイリアを賭けの対価とし、再戦を挑んでくる可能性もないことはない。 俺としてはそれが一番ありがたいのだが……イリアの性格から考えて、これは多分ないだろう。したがって、イリアに関しては腰を据えてかかる必要がある。 ではその間、何をすればいいのか。 そこで俺が考えたのが冒険者ギルドに喧嘩を売ることだった。 喧嘩といっても、ギルドマスターを暗殺するとか、受付嬢をさらうだとか、他の冒険者を始末するだとか、そういった犯罪的な意味ではない。 もっと正々堂々と、なおかつ世のため人のためになる方法で喧嘩を売るのだ。 具体的にいえば、ギルドが処理できない依頼を俺が片付けていくのである。 俺自身は除名された身なので依頼を受けることはできないが、その点はルナマリアがいるから大丈夫。 受付嬢が大好きなギルド規約にも「奴隷は冒険者になるべからず」なんて一文はない。「奴隷になった冒険者は即除名処分にする」などという一文もない。 奴隷になった今もルナマリアは冒険者のままだ。『隼の剣』は抜けさせるが、ギルドからは脱退させず、俺が依頼を受ける窓口になってもらう。 狙うのは依頼遂行が滞っている、いわゆる「塩漬け」状態のクエスト。 報酬が安すぎたり、報酬は適正だけど拘束期間が長かったり、報酬は高いけど危険度はそれ以上に高かったり。 塩漬けとなる理由は様々であるが、そういった依頼はギルドにとっては悩みのタネだ。依頼した側からはクレームがつくし、かといって冒険者に斡旋あっせんしても嫌な顔をされる。 たいていは規約違反を犯した冒険者に罰則ペナルティとして遂行させる。時には冒険者資格を持つギルド職員が事にあたることもあるようだ。 一般的な街ならこれで解決するのだが、そこは冒険都市イシュカ。日々持ち込まれる依頼の数は百をはるかに超え、その分塩漬けになる確率も高い。 なにせ一日二日待てば、すぐに新しいクエストが大量に張り出されるのだ。わざわざまずいクエストを受ける必要がないのである。 そうやって溜まっている塩漬け依頼を片付ける。 依頼主にしてみれば、一向に依頼が片付かない現状が面白いはずがない。ギルドに対する不信感も募るだろう。 そこを俺が颯爽と解決するわけだ。 もちろん表面的に見れば、依頼を引き受けるのも片付けるのもルナマリアである。 だが、ルナマリアの現在の境遇を考えれば、背後に俺がいるのはバカでもわかる。 除名された元冒険者が、ギルドで処理しきれない依頼ばかり片付けていくのだ。そこに込められた意味は誰でも読み取れるだろう。 これが通常の依頼ならば、ギルドは何のかのと理由をつけて、ルナマリアのクエスト受注を拒むかもしれない。しかし、塩漬け依頼に関してはそれができない。 仮にそれをしたら、依頼主のところにいって密告チクるだけだ。ギルドはそちら様から受けた依頼を塩漬け状態にしているくせに、私たちが依頼を受注しようとしたら拒否しましたよー、と。 こうすれば依頼主は激怒し、ギルドの株は大きく下がる。なんならギルドを経由せずにその場で俺たちが依頼を受けてもいい。 以上が俺の考案した「平和的にギルドに喧嘩を売る方法(序)」であった。