風にはためく白衣。 ジーパンのポケットにその太い手をねじ込んで、男の登場を待つ男の表情は、大きなつば広の帽子で見えない。 彼の精一杯の「カッコつけ」であった。 服を買いに行く勇気も暇もない。家の中にあった最もカッコよさげな白衣と帽子を身に付け、“らしさ”を演出した。 魔魔術に相応しい恰好……それを彼なりに苦慮した結果である。 心機一転、何かきっかけがあったのではないかというケビンの指摘は、当たっていた。 ないはずがないのだ。 わずか半年にして魔魔術を全て習得し、「魔術師」と名の付く者のことごとくが相手にならなくなった。 否、相手にならなくなってしまった。 彼は魔術師の頂点を極めようとして魔魔術を覚えたわけではない。単純に面白くて楽しくて仕方がなかっただけなのである。 だからこそ、戸惑った。 夢中になって駆け抜けて、ふと足を止めてみれば、周りに誰もいなかったのだ。 彼は理解させられた。 これまでずっと孤独だったと、そう思っていたが。本当の孤独は、これからなのだと。 孤独に研究してきたつもりだった。ただひたすらに魔術を極めていれば、いつか誰かが追い付いてきて、正当な評価をしてくれると、報われる日が来るのだと、そんな風に漠然と思っていた。「…………」 これは、決別の証。 魔術師ではなく、魔魔術師として、嘘偽りのない本物の孤独の中で生きてゆかんとする、覚悟。 そして、彼を待つただ一人の男への、敬意。 誰よりも孤独であろうその男を、独りにさせないための、決意。 それらの、至極こっそりとした、表明。「さ、やろうか」「デュフォッ」 伸びをしながら歩み出てきた余裕の表情の男を前に、彼は不意に笑ってしまった。 あまりにも、話したいことが多すぎる。 この半年、如何に楽しかったかを伝えたかった。 多くの発見について語り合いたかった。 意見を交換したかった。 魔術とはどうしてこんなにも面白いのかと、些細なことでもいいからこの感覚を共有したかった。 一瞬にして様々な思いが溢れ、堪えきれず、吹き出してしまった。 ――そう。それも、これも、全部、全部、貴方のおかげだ。 願わくば、貴方にも、つい吹き出してしまうほどに、喜んでもらいたい――!「む、ムラッティ・トリコローリ、け、見参」 ちゃんとしなければ。 ムラッティ・トリコローリは、世界で唯一、貴方を脅かせる魔魔術師なのだ……!「叡将、返して、もらますっ」 噛んだ……!