何気ないその一言に、ぎしりと僕らは凍りつく。 振り向くマリーから「知っているの?」と無言で尋ねられ、こちらも「知らないはず」と首を横へ振る。以前からおじいさんは妙に勘が鋭いところがあるな。 うん?とおじいさんは怪訝な顔をこちらへ向け、ふははと笑いながら表情を緩めた。「いや、変なことを言ったね。この子は昔から寝るのが好きでな。あんまり気持ち良さそうなもんだから、おばあさんと『夢の世界で遊んでいるのかな』なんて話してたもんさ」 そういいながら仏壇へと案内をされる。 畳敷きの間には陽が差し込み、僕らはそっと手を合わせた。説明せずともどのような慣わしなのか分かるらしく、マリーは静かに線香の香りに包まれる。 黒猫の足を拭いていたおじいさんは、僕らの背中へと明るく声をかけてきた。「なに、俺はてっきり嫁でも連れてくると思ったからさ」 ぱちんっ!と2人で目を見開いてしまった。 嫁という言葉に反応し、ちらりと少女へ目を向ける。するとマリーも手を合わせたまま僕を見上げ、互いにゆっくりと頬を熱くさせてゆく。