プリムラが加わった ギルドで牙熊を換金して家に帰ろうとしたら、いきなり腕を掴まれた。 誰かと思ったら少々やつれ顔のマロウ商会の娘――プリムラさんだった。「プリムラさん!? 何故ここに?」 顔はやつれて、美しかった金髪はボサボサ――寝不足なのか目の下にはクマが出来ている。 プリムラさんがいきなり俺に抱きついてきた。「酷いじゃありませんか! いきなりいなくなるなんて! そんな酷い方だと思いませんでした!」「いや、俺が貴族に捕まれば、匿っていたマロウ商会にも迷惑が掛かるから」「迷惑かどうかなんて私達マロウ商会が決める事で、ケンイチさんが決める事ではありません!」「そりゃそうだが……他の商会からのやっかみもあるだろう。俺が逃げて、そんな人だったなんて知らなかったんです――で、丸く収まるのに」「ケンイチさんから教えて頂いたドライジーネでマロウ商会は、家名までいただきました。森の木々から柄を作った斧を持って森へ木を切りに行けと言うのですか?」 あ~、日本語で言う――恩を仇で返すって意味だろうな。「まぁまぁ落ち着いて――」 とりあえず立ち話も何なので近くのレストランへ入る。この世界に洒落た喫茶店などはない。 食堂、レストランのほとんどが、宿屋と一体になっている形式なのだ。 酒を飲むのも飯を食うのも食堂で、その二階に泊まり部屋があり、女給やウエイトレスが小遣い稼ぎに客を取ったりするのが普通だ。 俺が最初に泊まった宿屋にいたアザレアもそんな暮らしをしている一人だ。 そして店のランクが上がるのにつれて、料金も高くなる。当然、女のランクも上がる。 賑やかな大通りに面した好立地に建つこの店は中の上辺り。まさかプリムラさんを連れて場末の飲み屋に入るわけにもいくまい。 中へ入ると、高級材木を使った流石に良い内装をしている。 席につくと、飲み物とお菓子を頼む。すぐに注文した物がやって来た――お茶と小麦を砂糖を入れて焼いた、クッキーに近い物。 砂糖が貴重品なので、こんなお菓子でも結構な値段がする。 シャングリ・ラで買った元世界のお菓子など売ったらとんでもない事になるな。 それに手を付けず、延々とマロウ商会がどれだけ俺の世話になったかを訥々と話すプリムラさん。 個人的にそんなにお世話したっけな? むしろ俺がマロウ商会にお世話になりっぱなしだった気がするんだが。 だが俺の納品した品物が貴族に大評判で、上流階級の人々のマロウ商会への覚えも非常に良くなったと言う。 それで取引量がさらに増えると言う、倍々ゲームになったようだ。「そればかりではありません、私の命も助けていただきました!」「それは確かにそうだが……」 ああ、それなのに別れも告げすに、いきなりいなくなるなんて――と、彼女は眠れぬ日々を過ごしたと言う。「街の噂じゃ、ノースポール男爵への輿入れが決まっていたと聞いたが」「そういうお話は確かにいただきましたが、お断りさせていただきました」 え~? 男爵のメンツが丸潰れなんだけど――大丈夫かな? まぁ、あの人は嫌がらせ等をする人ではないと思うが。 多分、がっくりと肩と落としているのに違いない。「凄い良い縁談だと思ったんだが、騎士――いや男爵様も人格者じゃないか」「そうなんですけど……父に言われて何回かお会いしたんですが、お腰の剣を凄い自慢なさって、ブツブツと刃に語り掛ける姿が、なんだか怖くて……」 ダメじゃん! ちょっと男爵様ぁ――少々、朴念仁風ではあったが、根から変わり者だったみたいだな。 有能なのに出世出来ないのは、そこら辺に問題があったのか?「街の人達も、水臭いと怒ってました」「まぁ、別れも言わずに、いなくなったのは悪いと思ってる。だが――皆に迷惑が掛かるからな」「それも先程、言いましたけど――!」 プリムラさんが激昂して、席から立ち上がろうといるのを諌める。「解った! 俺が悪かったよ。解ったから、ダリアに帰って皆に伝えてくれ」「帰りません」「え?」「帰りません! もう、父には別れを告げてきました」 俺の方をキッと見つめて、そう言う彼女の目からは確固とした意思を感じる。