「なにを買うか、具体的には決まっているの?」
「いえ、それがなかなか思い浮かばなくて…。ネクタイはそのかたの趣味があるでしょう?」
「そうだねぇ」
「カフスやラペルピンも選ぶのが難しくて…」
「相手はいくつくらい?」
「お兄様と同い年です」
「ふぅん。服飾系で選ぶのが難しければ、名刺入れやカードケースとか」
「なるほど!」
それはいいアイデアだ!
「でもラインで揃えている場合があるからねぇ」
「なるほどぉ~…」
伊万里様ならすでに厳選されたものを使っていそうだもんね。
「貴輝さんには相談しなかったの?」
「お兄様からは消え物一択でしたわ」
「あはは。さすがだなぁ」
さすがってなにが?まぁ、いいか。
「あと気楽に贈れるものとしたら、ゴルフマーカーかな」
「ゴルフマーカー?」
「ゴルフのグリーン上などで、自分の打ったボールの目印に使うアイテム。グリーンに他人のボールがいくつも転がっていると、打つ時邪魔になるでしょ。だから普通はマーカーを代わりに置いてボールをどかすんだよ」
ほほぉーっ、そんなグッズがあるのですか!私はゴルフもやらないし、興味もなかったので全く知らなかったよ!
「でも気に入って使っているものが、すでにありそうですよね?」
これから始める人ならともかく、すでにやっている人は一通りの道具を揃えているはずだもん。
「まぁ、それはあると思うけど。でも何個あっても困らないものだし」
「そうなんですか?」
「うん。その日の気分に合わせて使い分けたりする人もいるよ。それこそカフスみたいなもんだよ」
「なるほど~!」
たくさんあっても困らないものなら、贈られても負担にならないかもしれない。
「でしたら、少しセンスに問題があっても平気かしら?」
「あはは。吉祥院さん、自分のセンスに自信がないの?でも大丈夫じゃない?おしゃれな人ほど個性的なデザインのマーカーで遊んでたりするし」
「遊び心ってヤツですわね!」
これはハードルが低い!決めた!伊万里様へのお土産はゴルフマーカーだ!
あぁっ!でもそれならイギリスで探せばよかったんじゃない?!ゴルフはイギリス!失敗した!戻りたいっ!今すぐイギリスに戻りたいっ!
「どうしたの?がっかりした顔しちゃって」
「…その情報を、ロンドンにいた時に知りたかったと思いまして」
「あぁ、そういうこと。でも別に関係ないんじゃない?パリにもゴルフウェアで有名なブランドがあるけど、畑違いのブランドで自分の知らない面白いマーカーを見つけてきたほうが喜ばれるかもよ」
「なるほど!」
円城がいいこと言った!よし、こうなったらパリとローマで、気に入ったゴルフマーカーをいろいろ買って、その中から一番いいと思うものを伊万里様にプレゼントしよう。そして残りはお父様へのお土産にすればいい。お兄様のぶんのマーカーはちゃんと選んで買います。
このお店にも装飾品扱いでマーカーが置いてあった。ほほぅ、可愛い。ほかのお店もチェックしてみよっと。
でも良かった。伊万里様へのお土産が一番悩んでいたものだから。今回ばかりは円城に感謝だな。
「円城様、素晴らしいアドバイスをありがとうございました」
「どういたしまして。お役に立てて光栄です」
円城って、案外いい人かもね!ふたりでにっこり。
笑顔のまま円城が私の肩に手を置いた。ん?
「恩に着なくていいからね?吉祥院さん」
恩に着せられたーーー!!
円城は鏑木との待ち合わせに行き、私達はロンドンで約束した通りセーヌ川の遊覧船に乗りに行った。しかもおしゃれなサンセットクルーズだ!素敵っ!
しかし周りはカップルばっか。あっ、あの子達瑞鸞生だ!手を繋いでる!男女七歳にして席を同じゅうせず!あっ、こっちの外国人カップル、今キスした!公序良俗をなんと心得るか!…羨ましい。
……前にどこかで聞いた、恋人のいない女友達同士で固まっていると、ずっと恋人ができないという話が頭をよぎる。今の私はまさにそれではなかろうか。私がモテないのはもしかしてモテない子達と一緒にいるから…。
「楽しいですねぇ、麗華様!クルージング大正解でした!」
隣のあやめちゃんがニコニコと私に言った。うっ!私ってば、なんてことを!モテない友達だっていいじゃないか。遊覧船に乗りたいと言ったらこうして一緒に乗ってくれ、フィッシュアンドチップスが食べてみたいと言えば一緒に食べてくれた。芹香ちゃんはファントムにも変身してくれた。
そうだ!愛情より友情。私達は女友達との友情をなによりも大事にしているだけなのよ。モテないわけじゃなく、あえて遠ざけているだけなのだ。そうなのだ。
しかし、5月のセーヌ川クルージングは、楽しいけど寒かった…。