Sクラスのみが集まる寮に戻り、上級生の部屋がある最上階に移動する。 ディアとタルトには自室に戻るよう指示を出していた。(今回の案件はきな臭すぎる) もし、俺が受けるべきでないと判断するような依頼だった場合、彼女たちが依頼の内容を知らないでいるための配慮だ。 ローマルングが直接伝えるような依頼だ。断った場合、知っているというだけで、消されかねない。 ネヴァンの部屋に足を踏み入れる。 部屋の作り自体は俺が使っているものと同じ。 だが、内装には趣味とセンスが出る。「実にネヴァンらしい部屋だ」「それは褒め言葉ですの?」「ああ、貴族令嬢らしく、品がある」 ネヴァンの部屋は、美しい調度品が並び、色彩は明るく華やかだ。 それでいて下品さはない。 洗練された美があり、女性らしさも併せ持っていた。 センスだけなら、ディアやマーハも優れているが、ディアの場合は魔法絡みのものを優先して置くし、マーハは女性らしさよりも機能性を重視する。 こういう趣の部屋に入ることは少ない。「お褒めに預かり光栄ですわ。ファロン、お茶とお菓子を」「かしこまりました。ネヴァン様」 ネヴァンが学園内につれてきていた使用人である、長身の女性が給仕してくれる。 淹れてくれたお茶からは、素晴らしい香りが漂う。「いい香りだ。こんな茶は初めてだ」 オルナでは茶葉に力を入れているだけあって、かなり茶葉に詳しい自負があったというのに、これは経験したことがない香りだ。「海の向こうから仕入れた茶葉ですの。なにも海の向こうと取引しているのは、オルナだけじゃありませんわ。海を制するものが商売を制する。私たちは百年前からそう考えて準備して来ましたのよ? 魔物にも、荒波にも負けない船を作り上げ、多大な犠牲を出しながら安全な航路を見つけ出しましたの」 最高の人類を作り上げるローマルング家だ。 それだけの技術を持っていてもおかしくない。 そして、これからの商売は貿易が主戦場になるという先見性も素晴らしい。「さすがはローマルングだ」「でも、納得できないことがありますの」「それはなんだ?」「オルナ商会の船ですわ。……ローマルングが何十年もかけて作り上げた世界最高だと信じていた船、木ではなく鋼であるが故に海の魔物を物ともせず、魔力を動力にして風に依存せず速力を出す夢の船。それと同じコンセプトかつ、より優れた設計を、たかだか一商人であるイルグ・バロールが行い、短期間で作り上げた。どういうわけか、私たちが幾度もの失敗と痛みで見つけ出した安全で有益な航路すらいくつか見つけ出していますの」