どちらの味もマリーが楽しめるよう、僕は定番であるイチゴクレープを頼んでいる。ほどよい酸味を楽しめるので……って、あれ? どうして齧った跡があるのだろう? 気のせいかなと思って目をゴシゴシと擦り、もう一度眺めると……あっれぇ、さらにもうひとくち齧られてるぞ!?「あら、もう食べていたのね。あなたって食いしん坊なのかしら」「え? いや、うーん? まだ食べてないんだよ?」「あはは、何を言っているの、しっかり食べた跡があるじゃない。どうして嘘をついてごまかすのかしら。だめよ、交換っこをするって一緒に決めたでしょう?」 ぽかんとしている間に、少女のクレープと交換をしてもらった。 かじりかけの物を受け取るのは少し気恥ずかしいけれど……それよりも先ほどの怪現象は何だったんだろう。気になって気になって仕方がない。 ひょっとして、ホラー的な怖い目に合わされているのでは? そう思っていると、視界の端っこで動く何かが見えた。 僕は眠そうに見えるけど、実はドン臭いわけじゃない。たぶん夢の世界でモンスターと戦っているおかげで、動体視力も鍛えられているのだと思う。 さっと素早く視線を向けると、ゆっくりと伸ばされる猫の手があった。 …………。 えっ、なにしてんのこの人! ちょっと待って、今まで僕のジャケットのフードに潜んでいたの!? くっくっく、馬鹿な人間め、わしが隠れておるとも知らずに――などと思っているようにペロンと舌なめずりをしているが、バナナチョコに魅了されきっている黒猫は僕の視線に気づけない。 やがて金色の瞳もこちらを向くと、しばし数秒ほど無言で見つめ合った。 ――もンぐしゃあ! もぐっ、もぐっ、もっぐ! うわっ、なりふり構わずに食べ始めたぞ! 待って待って、僕だってマリーと交換するのを楽しみに……ああーっ、ほっぺがすごくパンパンになってる!「ふふーっ、こっちも酸味があって美味しいわ! ほら、イチゴって上品な甘さがあるでしょう? だから私は……あら、慌てた顔をしてどうしたの?」 ひゅん!と、忍者かと思うほど素早くウリドラはフードにもぐりこんだ。もぐもぐと後ろから咀嚼音が聞こえてくるなか、僕はぎこちなく首を横に振る。 では、そろそろ僕もいただこうか。そう思い、手にしていたクレープへ視線を向ける。