「ねえねえ、これ見て!」
部活が終わった後の、更衣室でのことだった。むわりと水分をはらんだ空気が充満するそこで、髪から滴を垂らしながら、渚が言う。楽しそうにごそごそと鞄を漁った渚の手から取り出されたのは、一冊の雑誌だった。週刊誌のようなタイプで、高校生は普段あまり手に取らない種のもの。買ったばかりというよりは少し古そうで、表紙が少しよれていた。
「僕ね、すごいの見つけちゃった!」
渚の指がぺらりと表紙をめくり、開かれた雑誌が三人の前に突き出される。
「えっなにそれ!?」
突然視界に飛び込んできた肌色に、真琴が反射的に顔をそむけた。開かれたページには、服を身にまとっていない男性が白いシーツに身を投げ出している。突然見せられたものに、あとの二人も一体なんなんだと引きつった表情で渚を見つめた。
「拾ったんだけどさ、ちょーっとよく見てよ!」
渚の指がぺらりぺらりと紙をめくる。開かれるページ開かれるページ、全て男性の裸の写真だった。最初に見せられたのはまだマイルドな方で、ページがすすむにつれてどんどん過激になっていく。シーツに横たわっていた姿は四つん這いになり、足を開き、ちらりと舌を見せながら白い液体を顎に伝わせているものもある。
沈黙してしまった三人の微妙な表情をちらりと確認してから、ふふ、と渚が笑った。
「凛ちゃんに似てない?」
一体渚は何をしたいのかと困惑していた怜は、その言葉に思わず渚の顔に視線を移す。
「凛ちゃんだよ。よく見て。すっごい凛ちゃんだから」
ぱたりと閉じられた雑誌が、もう一度、ゆっくりと開かれる。先ほどと同じ、白いシーツに横たわる男性の姿。髪が少し長めで、赤っぽい色をしている。切れ長の目に、長い睫。適度に筋肉がつき引き締まった体躯に、日本人にしては白い肌の色。彼のあられもない姿が、ページをめくるたびに現れる。ぺら、ぺら、とページをめくる音と全員の押し殺した呼吸が、静かな更衣室の中に響いている。全員じっと雑誌を見つめ、男性が足を開いた写真を、四つん這いになった写真を、赤い舌をべろりとだした写真を網膜に焼き付けていく。写真のページが終わるまで、誰も何も言わずに雑誌を見つめ続けた。前半はカラー、後半は文字が連なっていて、どうやら記事のようだ。
「……似てるね」
至極真剣そうな声で、真琴が呟く。
「……僕は凛さんの方が美しいと思いますが」
そっと眼鏡を手で押し上げて、怜が小さく咳をした。
「……渚」
「……ハルちゃん」
遙が渚の瞳をじっとのぞきこみ、それに渚は強く頷いた。全員、何も言わずに目配せし、それから一様にこくりと頷く。全員の頭に浮かんだことは、あえて言葉にしなくても一瞬でお互い理解することが出来た。
まさに、全員が以心伝心を理解した瞬間だった。