いえ、絶対に負けませんから!」マイナスの感情を再び張り直す。決して私に落ち度があるのでは無い。この気持ちよさはマスターの性癖が伝播したものであり、懐かしさは私のものでは無く、依代の物であると自分に言い聞かせる。だが疑似サーヴァントとして召喚された以上、依代となった人間の存在も、マスター方の影響も、どちらも断つことができない。一度意識してしまった懐かしさは、体中をじわじわと侵す。逃げ道として作った理論が、毒のように私の心に侵食する。じゅるじゅると粘膜が絡まり、身も心もふやけていく。緊張の糸が解けていき、心の奥にしまい込んであった、飾らない気持ちが顔を出す。やがて、私はこの懐かしさの正体を理解した。「愛されていたんだ……」結論が無意識のうちに口をついて出た。依代の少女がどれだけ悲惨な運命を辿ってきたのかは分からない。それでも生まれる前は、おなかの中で母親に愛され続けていた。愛されていたことを懐かしいと思える依代が羨ましかった。私は誰からも愛されなかった。他者を愛することしかできなかった。「そうだね、カーマちゃんだって、誰かに愛されたかったんだと思う」「違います、私は、私は……」認めたくない。愛されたい自分など、どこにも存在しない。渇愛している自分の心を認めないことで、愛の神である自分を保ってきたのに。「カーマちゃんは誰からも愛されないと思っていたみたいだけど、私はカーマちゃんのこと好きだよ?」聞きたくない。こんなにおぞましい愛の形なんて、愛の神が認めない。「カーマちゃんがどれだけ大変な目に遭ってきたのかは、私には理解することができないと思う。 それでも、受け止めることはできると思うから」「やめてください、優しい言葉をかけないでください」耳を塞ごうにも、腕が肉に埋まっていて動かない。体も心も踏ん張っていたのだが、不意に涙がぽろりと滲む。粘液に混じった一筋の涙が頬を伝う。一度流れ始めてしまったものはもう止められず、大粒の涙がぼろぼろ零れ落ちる。「わ、私は……」限界だった。心の奥から感情が噴き出してきて止まらない。温かい胎内で揺られながら、私は声を上げて泣いた。「良いんだよ、たくさん泣いて。 泣いたらすっきりするから」乾いてひび割れた心の隙間に、マスターの言葉が染み渡る。形だけの同情や理解ではなく、ただただ受け止めてもらえるということが、こんなにも救われるのだと、私は知らなかった。例え経緯は歪んでいようとも、本物の愛であることには変わりない。