「なんつーか、お前も忙しいな」「いや、全く。俺としても、もう少しゆっくり休みたかったんだけどな」「グルルゥ」 正門の警備兵から呆れたように言われた言葉に、レイは小さく肩を竦めて言葉を返す。 そんなレイの横では、セトもまた同意するかのように鳴き声を上げていた。 領主の館を出て、いつものように庭で遊んでいたセトと合流したレイは、そのまま夕暮れの小麦亭に向かって女将のラナに依頼で数日程ギルムを留守にすると告げ、早速とばかりに正門までやってきていた。 数日分の宿を取っているのに何故わざわざ街を留守にするとラナに告げたのかと言えば、純粋にセト目当てに来た客に対しての伝言の為である。 元々レイは夕暮れの小麦亭を定宿にしてはいたのだが、荷物の殆どはミスティリングに収納されている。 その為、普通の冒険者であれば定宿を引き払う時にはそれらの荷物を運び出したり、処分したりといった手間が必要なのだが……レイに限ってはその辺の心配がいらないので、気軽に宿を引き払うことが出来ていた。 もっとも、今回の場合はあくまでも数日程留守にするだけなので、そこまで神経質になる必要はないのだが。「ま、何にせよレイとセトが盗賊退治に出張ってくれるんなら、こっちとしては文句が無いどころか嬉しい限りだけどな」 レイに向かって言葉を掛けてくる警備兵の表情には、深刻そうな表情が浮かぶ。 警備兵として……そして何よりも辺境にあるギルムの住人として、商人達への襲撃が続くということの深刻さを理解しているのだろう。 勿論商人も護衛の冒険者を雇っている以上、全員が全員襲われる訳ではない。 襲われて撃退する者も多いが、晩夏に向かっている今の季節は、その分ギルムに向かってくる商人の数も多かった。 その中には辺境を甘く見ている者も多く、そのような者達の場合は護衛代を支払わないような者も多い。 結果的に、盗賊に襲われる商人が増えることになってた。 更に今問題とされている盗賊は、襲った相手を皆殺しにして自分達の手掛かりを極力隠すような狡賢さを持っている。「ランガ隊長によろしくな」「ああ」