「リヒト、来年からは神殿長が交代になります。今日はその紹介のためにメルヒオールを連れてきました」 神殿長が交代になることを町長のリヒトに伝えてから儀式を行い、熱のこもったボルフェを見学する。メルヒオールが寝るのはハッセの冬の館だ。次の日の朝に徴税官と徴税の確認をしてからメルヒオールと小神殿に移った。引継ぎの開始である。「メルヒオール、これが小神殿の守りの魔石です。祈念式と収穫祭の二回、魔力を供給することになります。こうして色が変わるまで魔力を注げば終わりです。……魔力量が心配ならば、魔石に魔力を準備しておくと良いかもしれませんね。後は、シャルロッテやヴィルフリート兄様にも登録をお願いして、協力してもらうようにしても良いと思います」「ローゼマイン姉上は全て一人で行っていたのですね」 メルヒオールは少し落ち込んだような声を出したけれど、毎日命がけの魔力圧縮をしていたわたしと魔力量を比べてはならない。そんな勢いで圧縮していたら、わたしのように成長不良になってしまう。「メルヒオールはいきなり全てを一人で行う必要はありませんよ」 守りの魔石に魔力を登録した後は、側仕えやハッセの灰色神官達がわたしの隠し部屋から家具を一切合切運び出している方へ視線を向ける。「メルヒオールが使う家具はどれですか? この隠し部屋と一緒に家具もできるだけ譲ります。一年に二回しか使わない物にお金をかけるのも勿体ないでしょう? ここに新しい家具を入れるよりは、他に使った方が良いと思うのです」 領主一族がお下がりをもらうことはあまりないので、メルヒオールは一瞬驚いていたが、メルヒオールの会計を握っているらしい側仕えは安堵の表情を見せる。神殿用の予算は付いているけれど、ハッセとエーレンフェストの神殿で別に付くわけではない。新しく部屋を整えるのは想定外のはずだ。「布団などの布製品は入れ替えた方が良いでしょうが、テーブルや寝台などの木製の家具はそのまま使わせていただきましょう、メルヒオール様。ローゼマイン様のおっしゃる通り、引継ぎに忙しい中、一年に数回しか使わない物のために城で相応しい家具を選んだり、注文したりする時間はございません」 お金ではなく時間が惜しいという側仕えに、メルヒオールは「そうですね。では、ありがたく使わせていただきます」と納得の顔を見せた。「トール、リック。メルヒオールが使わない物を馬車に運んでください。エーレンフェストの神殿へ持ち帰ります」「かしこまりました」 わたしは使わない物をエーレンフェストの神殿に運び込んでもらえるように指示を出す。隠し部屋が完全に空になったら、メルヒオールが登録をし直した。そして、また家具を運び込んでいくのである。