何……?「勝負だと?」「うん……実はね――」 そう言って雲母は、先程アリアさんとの間で有った出来事の事を教えてくれた。 俺は雲母の言葉に頷きながら、頭の中で話を整理し続けた。「なるほどな……。ボイスレコーダーで録音までされているから、今更勝負を降りる事も出来ないって事か……」 俺の言葉に、雲母は首を小さく縦に振った。 俺はそんな雲母に頭を抱える。 いくら破格な報酬を積まれたからといって、こんな勝負を受けるなんて……。 ただ、こいつが勝負を受けた理由は本当にそれだけなのか? この勝負でかけた雲母の株価の総額は、約一億円くらいらしい。 それを失うとすれば、西条財閥から最後のチャンスをもらっている雲母は、本当に見放されるだろう。 ……いや、それどころか……失った株の賠償及び、ライバル企業に西条財閥の株を渡す事になった責任を、どれだけ負わされる事か……。 雲母がそれをわかっていないはずがない。 こいつは頭が良いんだから。 だから、どれだけ金を積まれようと、雲母が勝負を引き受けるとは思えない。 ただ、もう引き受けてしまった物はしょうがない。 今は頭を切り替えて、この状況を打破する方法を考える事が優先だろう。「雲母は株の知識があるのか?」「うん……結構勉強はしたし、実際に何度かやった事もあるよ」「そして、平等院さんは株の知識が無いと言ったんだな?」 流石にアリアさんと呼ぶわけにいかなかったので、アリスさんも居ない事から苗字で呼んだ。「うん……でも、それが本当かどうかはわからない……。あいつ凄く汚いし……」 俺の言葉に、雲母はしかめっ面をしながら答えた。 なるほどな……。 聞く限りは、これは雲母にとって有利な戦いだ。 ボイスレコーダーを使ったうえで、アリアさんは株の知識が無いから勝負をしようと持ち掛けてきている。 となると、本当に株の知識がないのだろう。 そうじゃなければ、アリアさんがやった事は詐欺になる。 むしろこちらとしては、そちらの方が有難い。 そうすれば、雲母はアリアさんが株の知識が無いと言ったからこの勝負を受けたんだと、主張をする事が出来る。 例えそれが周りから見てみっともなかろうと、雲母を護る事が優先だ。 ただ――アリアさんが株の知識が無いのにこの勝負を持ち掛けてきたという事は、それでもアリアさんは確実に勝てる戦略を用意しているという事だ。 彼女はかなりのやり手社長で知られているし、何より深追いをしないらしい。 そんな彼女が危険な賭けをするとは思えない。 だから、雲母も思いつめた表情をしていたのだろう。 だが……それはなんなんだ? 一体どうしたら、株の知識が無いのに勝てると思える? 俺がもしアリアさんの立場ならどうする?