30分程、森の中を走って目的地へ到着した。 場所が把握できていれば、湖畔沿いをバイクで走った方が速いかもしれないな。 目の前には、5m程の崖の裂け目が黒い二等辺三角形を作り、ぽっかりと口を開けている。「ここか……ミャレーは入ってみたか?」「ちょっと入ってみたけど、明かりがなかったので直ぐに戻ってきたにゃ」 夜目が利く獣人でも、月明かりや星明かりすら無い暗闇では何も見えないだろう。 アイテムBOXから頭に装着するLEDヘッドライトを出す。 追加で同じ物を買い足した。ミャレーとアネモネの分だ。アネモネにはバイクのヘルメットの上から装着させた。「頭を岩にぶつけないように、これを中でも被ってな」 アネモネに被せたヘルメットをコンコンと拳で叩く。「うん」 裂け目の入り口は5m程だが、中へいけばどんどん天井が低くなるのだろう。 入り口に方向探知機の親機を置いて、武器を整えると暗闇の中へ脚を踏み入れる。 ポケットから方向探知機の子機を出すと、正確に親機の方を指している――こいつは便利だ。 こんなのはシャングリ・ラでも売ってないからな。 文明の利器が凄いのは当然だが、魔道具ってやつも負けてはいない――科学で説明出来ない動きをするのだ。 例えば、電波を使えば科学の力でも方向探知機を作れるが、岩の中や水の中まで正確に方向を示す事は出来ない。 だが、この魔道具の方向探知機なら、それが可能になるのだ。「この明かりはいいにゃ! 頭に付けるので両手が使えるにゃ」 前衛のミャレーはコンパウンドボウを背中に背負って、俺が貸したカットラス刀とポリカーボネート製のバックラーを装備している。 俺はナイフとクロスボウを、アネモネにもナイフを渡しているが戦闘は無理だろう。 彼女は後方から魔法を使っての援護だ。「アネモネ、後ろも見ててくれよ。今のところ一本道だが、分岐があったりしたら、後ろから襲われる可能性があるからな」「うん……」 アネモネは流石に怖いようだ。俺の背中にひっついている。「うぉぉ――超怖えぇぇぇぇ」 やっぱり暗闇ってのは本能的な怖さがあるな。こればっかりはどうしようもない。 簡単に体験してみたければ、夜の海や川へ潜ってみればいい。下手な肝試しより怖いので――おすすめは出来ないが。 足元をチョロチョロとトカゲのような生物が走り回り、明かりから逃げるように闇の中へ消えていく。 ミャレーのような獣人は夜目が利くので、このような暗闇でも何も感じないらしい。