振り返れば赤ん坊だった頃のラフィニアも、イングリスはしっかり覚えている。 それがこんなに――あっという間だった。 親ではないがこれが親心と言うものだろうか。 成長したラフィニアがここにいると言うだけで、しみじみとした感動を覚えるのだ。「あはははっ。何それ、お父様やお母様みたいね。でもありがとう、クリス。クリスがそう言ってくれるなら大丈夫よね。あたしだってドレスとか着慣れないし、ちょっと緊張してたのよ」「二人ともよくお似合いですよ! ささ、準備は出来ましたから行ってらっしゃい!」 仕立て屋の女将が、イングリス達の背中を押した。「よし! じゃあ行こ、クリス!」「そうだね」 ラフィニアがイングリスの手を引いて、二人は夜会の会場へと向かう。 一階の、中庭に面した大部屋が今日の会場だ。 入口を入ってすぐの所に、きりりと精悍な顔つきをした、若い女性騎士が立っていた。 彼女はエイダ。若いながらこのユミルの騎士団で副騎士団長を務めている。 現在は間の悪い事に、父リュークは国内他領への救援のための遠征に出ている。 だからこの場は、彼女が警備等の責任者という事になる。「あらラフィニア様、イングリス様。二人ともよくお似合いですね! とても可愛らしいですよ!」 イングリス達は騎士団の討伐に帯同したり、訓練も共にしたりするので、彼女とは普段から親しい仲だ。同じ女性という事で、何かと彼女が面倒を見てくれていた。「ありがとう、エイダ」「ありがとうございます」「さ、どうぞ奥へ。侯爵様もお待ちでしょう。楽しんで来て下さいね」 と、エイダは笑顔で言い、その後少しだけ表情を引き締める。「ですが一応、周囲に注意を払っておいて頂けると助かります。このユミルにそんな輩が現れるとは思いませんが、世間には反天上領のゲリラ組織などもあると聞きます。ご使者の身に何かあれば大変ですから」「心配性ね、エイダは。ユミルは田舎だもの、そんな話は別の世界の事よ?」「ラニ。父上もいないし、エイダさんは責任重大なんだよ。協力はしようよ」 むしろそういった者が現れたのなら、どの程度の力か腕試しをしてやりたいものだ。「そうね。あたし達の腕を信用して言ってるわけだもんね?」 ラフィニアは上級印の持ち主であり、騎士団のどの人間よりも魔印で言えば各上になる。イングリスも魔印は持っていないが、剣技の上では並ぶ者の無い鬼才である――とエイダは認識している。だからそう言うのだろう。「勿論です。お二人とも、お願いします」「うん、じゃあ行ってくるわね」「分かりました。それじゃ」