私は、そこに入った。 手に燭台を持って奥に入ると、人の気配がした。 私が入ると、その気配から微かに忍び笑うような声が漏れた。「あれ、ひよこちゃん、どうしたんだい? こんなところで」 そう言って、奥にいた何者かが動いた。 この声、間違いない。「こちらのセリフです! ヘンリー様、探しましたよ! そろそろ出番です!」 そう言って、私も慎重に奥に進む。 近くまでくると燭台の明かりでその人の顔が露わになった。 私が探していたヘンリー殿下がいつもみたいな胡散臭い笑みを浮かべて、腰を下ろしていた。「ああ、そういえば、今日は劇の日だったか。道理で周りが騒がしいと思った。ところで、よく私のいるところがわかったね?」 そう言って、彼は立ち上がって、服に付いた汚れを払う。「そんなこと言ってないで、早く戻りますよ!」 私がせかすと、ゲスリーは肩を竦めた。「ひよこちゃんも、まずは落ち着いたらどうだい? ここは静かで落ち着く、おすすめだよ」「ヘンリー殿下が時間通りに来てくれないから、焦ってるんです!」 何暢気なこと言ってんだ! 私は、面倒くさくなって、ヘンリー殿下の手を取って引っ張るように洞窟の外に連れ出した。 外のまぶしい明かりにゲスリーが目を細める。「……眩しいな」 そう言って、忌々しそうに眉を寄せるヘンリーの手をさらに引っ張って、歩かせる。 ちんたらしてる場合じゃない。急がないと、みんなが待ってる! ……でも、なんか、今日のヘンリー殿下、ちょっと様子がおかしい、ような。 ちらりと後ろを振り返って、改めて顔色を窺うと、彼と目が合った。 いつもの胡散臭い微笑みを返してくる。 いつも通り、のような気もするけれど。「……なんで、あんなところにいたんですか? 明かりもつけずに」「静かな場所に行きたかったんだ。色々考えたいことがあってね」 へー、考え事。 ゲスリーったら、考え事をするために暗いところに一人で行ったりするんだ。意外。「ヘンリー殿下も一人で考えたくなる時があるんですね」 私はとりあえずそう言いつつ先を歩く。 ゆっくり会話できるような余裕はない。 今急いで戻ればまだ間に合う。「面倒だが王族ともなると、色々な話を聞くことになるんだよ。……例えば、縁談とかね」 後ろでゲスリーがそうポツリと言った。 え? 縁談? ゲンリー殿下に縁談? うわー、縁談相手かわいそう……。