(俺、いつもお見合いの時に何を喋しやべっているよ? 間が持たねえ) 頭の回転が鈍にぶくなっているのか、話題が思おもい浮かばない。(でも、今日はリーゼロッテも喋らないよな。いつもは向こうからあれこれ話題を提供してくれて、話が弾はずむんだが、今日は妙に口数が少ない。でも、待てよ? やっぱリーゼロッテも緊張しているのか? となると……) ――俺に気があるということじゃないのか? そう思った瞬しゆん間かん、弘明はふふんと上じよう機き嫌げんに口くち許もとを緩める。(あー、まあ、そうだな。よーく考えてみればお見合いをお膳ぜん立だてしたのはユグノー公爵であって、俺じゃない。現状は互いに気持ちを伝えていないフィフティフィフティの状況だと言ってもいい。ユグノー公爵はお見合いをしてこなかったリーゼロッテをお見合いの場に引きずり出して、最高のお膳立てをしてくれた。お見合いに出席した以上、最低限の脈はあるはずだとユグノー公爵も言っていたしな。上う手まく結けつ婚こんに話を持っていくために、ここから先は俺のトーク力が試ためされると言っていい) ここで怯ひるんでどうするよ? 弘明は自分にそう言い聞かせると――、「あー」 口を開いて、後ろを振り返かえった。すると、軽く小首を傾かしげて見つめてくるリーゼロッテと視線が合う。(……やっぱめちゃくちゃ可愛かわいいんだよなあ。黙って後ろを付いてきて、しおらしいじゃんか。絶対結婚したいわ) 持ち前のポジティブさを取とり戻してきた弘明。「あー、すまんな。急にお見合いの話が行って驚いたろう? ユグノー公爵の奴、どうしても俺達を結婚させたいらしい」 まず行うべきは自分の立ち位置をハッキリさせることだ。そうして、自分にとって有利な状況を設定する。すなわち……。 ――結婚したがっているのは俺じゃないぞ。 と、リーゼロッテとの関係で前提を作り上げた。「……急なお話で驚いたのは確かですが、このお見合いはユグノー公爵が主導されたものだったのですね」 リーゼロッテがさりげなく事実の確かく認にんを行う。「ん、ああ、まあな」 微び妙みように歯切れの悪い返事をする弘明。ロザリーとロアナとの婚こん約やくにあたってリーゼロッテを第三夫人にすることを条件に設定したのは他ほかならぬ弘明だからだ。