信長の返事はなかった。
勝家はインターネットのアダルト動画「人妻!フェラ抜き天国」で見た光景を思い出していた。
だがまさか、自分のベッドの隣で、副理事長と保健医が「人妻!フェラ抜き天国」のような行為を繰り広げているところに遭遇するとは完全に想定外だったので、思考回路はショート寸前だった。
勝家は早く終われと祈っていたが、その希望は儚く打ち砕かれた。
「はぁ…公……!信長公……!」
カーテン越しの人影が密着して大きな塊になる。
「やはり、こんな、とても、我慢できません……お許しいただけますか……?」
「このうつけが」
「有難う御座います……!ん……!あ、あぁっ!」
(白昼堂々、保健室でなんてことを!!!!)
心の中で勝家は思い切り叫んだが、こうなってはもうできるだけ気配を消して寝たふりを決め込むしかなかった。
ベッドが軋む音と、肌がぶつかり合う音と、明智のあられもない喘ぎ声が保健室に響く。
「はぁっ…あっ…あ!」
普段の姿からは到底想像できない、上擦った声だった。
しばらくして、明智が一際大きな声を上げたので勝家は「終わった」と思ったが、そうでもなかったらしい。
ごそごそと動くとさっきまでとは微妙に違う音が聞こえてきた。体勢を変えたらしい。
勝家にとってこんなにも長く感じた四限目は生まれて初めてだった。今は一体何時なんだろうか。ここは地獄ではないのか。チャイムはまだ鳴らないのか。
そう思ったが、チャイムはまだ鳴らなかった。
「はぁ!はぁ…!信長公!のぶながこぉっ!」
明智の息がどんどん荒くなってきたように思う。
信長は、たまに懇願され明智の名前を呼んでいるようだったが、乱れた声を出しているようには聞こえない。凄い。流石魔王だ。と勝家はうっかり感心した。
勝家は、羊を数えるみたいに、明智の喘ぎ声の回数を数えて気を紛らわせそうとしたが、余計気になったのですぐにやめた。
とにかく無心で天井を見つめようとした。
「のぶながこっ……!あっ…そのまま…なかにっ、だしてください!…あっ……あ、……ッ嗚呼ーー〜〜〜っっっ!!!!」
(終わった…!)
終わった。
信長公、信長公、と明智は小さな声で繰り返していたが、ゴソゴソと服を着ているであろう音がしたと思ったらすぐにカーテンを開く音がした。
「……光秀、分かっておるな」
「……はい。次の会議までアレを……」
「なら良い」
信長が保健室から出て行った。
保健室の扉は内側から鍵をかけていたようだった。
勝家はもうベッドから出ていのか迷った。少し時間差をつけて起きたふりをした方が自然で気まずくないのでは…
そんなことを考えて動けないでいると、突如、勝家のベッドのカーテンが開かれた。
勝家は心臓が飛び出すかと思うほどに驚いた。
そこには明智が立っていた。
普段は綺麗に整えられている髪は乱れ、白い顔はほんのり紅潮し、瞳は少し潤んでいた。シャツは着てはいたが、ボタンは開いたままだった。
「勝家」
勝家は呼びかけられ、びくりとした。明智の乱れた姿を目の当たりにして、なぜか悪いことをした気分になっていた。
「どうか二人だけの秘密にしてくださいね」
明智はじっと勝家を眺めてからベッドに腰掛けると、そっと勝家の手を取った。
「……処理しましょうか?」
チャイムが鳴った。
勝家ははっとして明智の手を振り払うとベッドから抜け出し、急いで上履きを履き、学ランを持って逃げるように保健室から走り去った。
教室に戻りかばんを持って、ひとけのない校舎の裏の花壇のそばのベンチで一人で弁当を食べた。
しばらくすると熱は萎えた。
その日の晩、勝家はインターネットで「人妻!フェラ抜き天国」の動画を探したが、削除されたのか見つけられなかった。
仕方なく、明智に口で奉仕される想像で二回抜いた。