俺が頷くと、プリンスは腕を組んでしばらく考えてから、ゆっくりと沈黙を破った。「黒髪黒目、眼鏡で長身の寡黙な男だ。独特な訛りがあったな。あんまり顔に出ねぇータイプだ。宿屋の女がイケメンだと騒いでいたのを耳にしたことはある。僕には劣るがな」「名前は、リンリンか?」「いや、本名が……なんだっけか。リンジャオ、リン、なんとか?」「そうか。やつとは、いつ頃に出会った?」「出会ってから、一年経たないくらいだな。僕が天網座になったのが半年前だから、十ヶ月くらい前か」「十ヶ月前に出会って、糸操術を教わったと」「ああ。マジでやべぇーくらい糸の扱いの上手い人でさ、僕が天網座になれたのは、ちったぁーリンリン先生のお陰でもあるな」「で、いつ消えた」「……半年前だよ。僕が天網座になった直後に消えやがった」「わかった、十分だ。ありがとう」決まりだな。訛りのある寡黙な黒髪黒目の眼鏡男で確信した。 リンリン先生は――最高レート2670、元世界ランキング5位「傲嬌公主」のサブキャラで間違いない。 そっかあ……あの人もこっちに来てんのかあ。 ……是非、会いたいなあ。「僕の番だな」「あ? ああ、そうだな」「会わせろ」「は?」「リンリン先生、知ってんなら、もう一度僕に会わせろ」 プリンスが未だかつてない真剣な表情で言った。 本気だ。気迫が違う。それほどに、会いたいのか。「俺も、何処にいるかわからない。もし会えたら、お前に知らせよう」「……チッ、わかった」 プリンスがそこまで会いたがる男、リンリン先生。 俺も興味が湧いてきた。傲嬌公主さんは今、一体何処で何をしているのやら。「ご主人様。そろそろ次のお席へ。皆様お待ちになっておりますわ」 リンリン先生のことで色々と考えていたら、シャンパーニがそんな風に声をかけてくれた。 ああ、しまった。そんなに考えていたか。俺もそこそこ酒が回っているようだ。「ありがとう、シャンパーニ」「いえ」「でも、すまない」「?」「お前も待たせてしまっただろう? 敢闘賞おめでとう、シャンパーニ。俺はお前を誇りに思う。これからも良きメイドであり、良きお嬢様であってくれ」「!!」 よし、不意打ち成功。 彼女が敢闘賞に輝いてから、いつか言おう言おうと温めていた言葉だ。これ以上ないタイミングで伝えられて、よかった。「……ご主人様。わたくしも、ご主人様を誇りに思いますわ。ご主人様に仕えられて、わたくしは本当に本当に幸せですの。ですから、わたくしは、わたくしのために、そして、ご主人様のために、良きメイドとして、良きお嬢様として、輝き続けたく存じます……!」 日頃より研鑽の限りを尽くし、決して臆することなく困難へと立ち向かい、不撓不屈の心を披露する。その穢れなき敢闘精神は、大いに他の模範となり、輝かしく道を照らす。 マインの言葉通りだ。彼女は、シャンパーニ・ファーナは、きっとその夢を叶える。きっとお嬢様になる。メイドでありながら、完全なるお嬢様に……。「あ、おいセカンド。僕、三等だったんだ。抜刀術教えてくれよ、なぁー、抜刀術」「…………」 プリンスお前、やっぱり空気読めねーな。