黒幕の正体 バディンが自らの命を絶ち、魔王軍との形勢が一気に傾いた。 リーリアは魔王なんじゃないかってくらい暴れてたし、ポチと赤帝牛も大いに暴れていた。 ジョルノはいつもの通り涼しい顔をしていたけど、楽に戦っているように見えた。 逃げ散らばるモンスターもいれば、吸い込まれるように俺たちに挑んで来たモンスターもいた。 やはり魔王軍といえどモンスターの集まりだ。頭である悪魔がいなかったら脆いものだ。 勿論、油断出来るモンスターなんていないんだけどな。 ハハハハ、凄いなリーリア。それはオーガキングの頭じゃないかい? それを……あぁそう? そんな風にしちゃうんだ? あーあ、ランクSSのマザーを押し潰しちゃって? まだ斬り刻むの? あぁこれからだと? すり潰しちゃう訳ですね? そんなパーティの。いや、主にリーリアの暴れっぷりをチラチラと見ながら、俺は遊撃に回り皆の手助けに専念した。「…………ふぅ」 そんな俺の息が漏れたのは、戦闘が粗方治まったからだ。 既に俺とポチは隣同士で座り込み、未だ暴れまくるリーリアと赤帝牛のコンビを見つめている。「あの二人、仲がいいんじゃないですかね?」「やっぱりそう思うか? 相性も良さそうな感じがするんだよな」「あ、跨りましたね」 何あれ、悪魔か何かじゃないか?「暴れ牛を乗りこなす鬼ってところか」「うまい! と言いたいところですが、どちらも事実みたいなものですから何とも言えませんね」「どうだった? 今回の戦闘?」 俺は気になっていた事をポチに尋ねた。「うーん……始めは緊張しましたが、途中から無我夢中でしたね。何かこう……元気もりもりもりーって感じでした」「どういう事だよ?」「何でしょう? もしかして私、天獣の力を上手く扱えていなかったのかもしれませんね」 ポチは自分の二つの肉球をじーっと見つめながら言った。「それがこの戦闘で大分こなれたと?」「使い魔杯の時、赤帝牛さんと戦ってた時は気付きませんでしたけど、今回、赤帝牛さんの隣で一緒に戦っていて、色々学べた気がしました」「旅に出る時にシロが言ってた、『レベル外の強さ』ってやつか」「近いですね。逃げるより敵の懐に潜り込む方が安全だったり、巨大化のサイズを調整したり、ブレスを吐く時間を長くしたり短くしたり――――私もまだまだ勉強が足りなかったという事ですね」 いつになく真面目なポチに、俺は何も言えなくなってしまった。 八百年も俺の使い魔をやっていて、これ以上勉強しようというポチの気概に、圧倒されてしまったのかもしれない。 俺の聖戦士としての力を目の当たりにして、ポチの中の何かが変わったのか? それとも、ポチ自身、他に感じる事があったのだろうか?「ところでマスター?」「何でしょうシロさん?」「あの悪魔、倒さなくてよかったんですか? まさか自害するとは思いませんでしたけど……」 ポチが気付いてたって事は、他の皆も気付いてたんだろうな。 バディンの最後に。「ん~……アイツが悪魔だってのはわかってたし、絶対的に人間の敵だっていうのもわかってた……でも、アイツと戦ってる時、何故か楽しかったんだよな?」「聖戦士として存分に戦えたからです?」 キョトンと首を傾げるポチ。「いや、アイツと戦う事が……だな。多分それはアイツ自身も楽しんでいたからなんだろうな」「……その顔は他にも何かありそうですね?」 ずいと踏み込んでくるポチ。流石、よく見てるな。「多分、いち早く俺を認めてくれたからなんだろうな……」「あ~、マスターが悪魔側に傾いちゃった訳ですねっ?」「砕けて言い過ぎだろう。まぁ、大まかに言えばそんなところだな」「面白そうな悪魔だったんでしょうね。私も少し話してみればよかったかもしれません」 ふんふんと鼻息を吐くポチ。 ……お? ジョルノが戻って来たな。 おーおー、相変らず整った顔で澄ましてくれちゃって~。 いいないいな。勇者ってのは本当にカッコイイんだなー。 俺も魔法士より勇者になりたかったものだ。