と言われたから、改めてアランを見上げた。 黄緑色のきれいな瞳が私を見ていた。 え、あれ、なんか、アラン近くない? あ、いや、私が内緒話をするために奥に追いやったわけなので、こんなにまで寄っていったのは私からなんだけど。 なんだか、無性に恥ずかしくなってきた……。「そう、です、ね。で、でも、女性をダンスに誘うなら、それなりの誘い文句が必要ですよ」 と、内心ちょっと恥ずかしくなってきた私をごまかすためにそう口にすると、アランはちょっと悩んだ末に、私の左手をそのまま持ち上げて、手の甲に軽く唇を寄せてきた。 ん!? えっ!! な、なにやってんの!? と固まっている私に気づかずに、アランは口を開く。「リョウと踊りたい……ダメか?」 い、いや、別にダメじゃないけど、ダメじゃないけどさ! 手の甲にキスとか、確かに結構貴族の間だと男性が女性にやったりする挨拶だけどさ! そ、そういう恥ずかしいことをさらっとするみたいなのは、カイン様の担当だから! く、アランのくせに……! ちょっとドキドキしちゃったじゃないか! 子分にドキッとさせられるなんて! と、私が戸惑っていると、アランは自分の誘い文句がダメなんだと思ったらしくさらに口を開いた。「えっと、今日の焼き芋みたいな紫のドレスは似合ってるし、まるで、羽の生えた、えーと、そう! 妖精だ! 焼き芋の妖精みたいで、きれいだと思う。どうか、俺と踊ってほしい」 そう、なんとか必死に考えましたみたいな様子でアランが言葉を紡ぎだした。 ……いや、今日どんだけ焼き芋推してくるんだよ。 この紫のドレス気に入ってるのに、このドレス見るたびに、毎回ほかほかの焼き芋が脳裏にかすめていきそうなんだけども! そういえば、このドレスの裏地黄色だ……。 たしかに焼き芋みたいなドレス……。 私は、一瞬にして冷静になった。 先ほど一瞬ちょっとアランにドキッとしてしまった気がしたけれど、気のせいに違いない。 私は、まあいいや踊ろうか、という気分で頷くと、アランは嬉しかったようで、そのまま笑顔でテラスからダンスのフロアまでエスコートしてくれて、私は焼き芋ドレスを翻しながらダンスを楽しむことにした。