横に並べられた布団を見て、僕らは顔を赤くするでもなく片方へもぐりこむ。 いつもより少しだけ硬いものの、陽の香りがする布団は気持ちよく寝れそうだ。 向こうの枕を引き寄せ、そしてエルフはするりと腕のなかへやってくる。考えてみれば最近はもう枕はひとつで足りていることに気がついた。 どこにしようかと黒猫はうろうろ歩き、それから僕らのあいだ、わずかな隙間へすぽりとへと潜り込む。「たくさん移動したから疲れたよね。ゆっくり休もうか」「そうしましょう。ほんと夜が静かで、あなたの音ばかり聞いていたわ」 にうう、と布団の中から声が聞こえ、くすりと互いに笑う。 ごく自然に彼女は脚を乗せ、首筋へと潜り込み、そしてふうと満足げな息を漏らす。どこか甘酸っぱい匂いがするのは、たぶん林檎のせいだろう。 それを嗅いでいるうち、まぶたは重くなってゆく。 呼吸はゆっくりしたものへと変わり、やがて意識はとろりと溶けてゆく。 とぷんと水へ沈むように、僕らは夢のなかへと足を踏み入れた。「どれ、まだ起きているかな?」 少しだけ経ったころ、ふすまは静かに開かれる。 この家の主人が、2人の起きる時間を訊ねに来たらしい。 と、刻まれた皺はより深まり、老人は瞳を見開かせる。 静けさに満ちた部屋には、ふくらみのある布団はひとつきり。そしてゆっくりと平らになってゆく光景を見たからだ。あとには眠気を覚えるほど温められた布団だけが残され、しかし老人は穏やかに笑った。「ふ、ゆっくり遊んできなさい、2人とも」 ぱたりとふすまは閉じられ、古い廊下は足音を響かせる。 彼の気配が遠ざかると、雪深さを思わせるほど世界はシンとした静けさへ包まれた。