「世の中の娯楽を見ていて、ひとつ私に理解できないことがあるの。あなたもきっとピンとこないでしょうけど、頭を撫でるというだけで頬を赤く染めるという創作のことよ。分かるかしら」 ああ、そういうお話も見かけるかなぁ。 確かに僕もあまり理解できないし、そもそも頭を撫でるという発想がない。普通に生活している上で、まず「頭を撫でよう」とは思わないからね。 だけど、と少女は口を挟む。「頑張ったのならそうして褒めてもいいと思うわ」 そう瞳を逸らしながら囁いてくる。そっと周囲をうかがうとみんなはテレビを眺めているし、あまり邪魔にはならなそうだ。 ふむ、と息を吐きながらマリアーベルに目を向けた。「頑張ったね、マリー。エルフの里から一人で出てきて、立派な魔術師になった。僕よりもたくさん魔物を倒していると、綿毛のような可愛らしい子は気づいているのかな?」 さらりと髪を撫でながらそう囁きかける。 両手で肩にしがみつきながら、少女の瞳は揺れる。唇から「わ、わ、わ」と聞こえてくるのは、どういう感情が吹き荒れているのだろう。 先ほどよりも頬が赤くなってゆくのは、たぶんお酒のせいじゃない。わずかに耳の先端を揺らしつつ、ちらりとときおり見上げてくる瞳は、どこか潤んで見える。「え、ええ、頑張ったわ。私はこう見えて努力がそんなに嫌いじゃないの。勉強だって好きだもの」「ならたくさん褒めないといけないね。頑張ったらいいことが待っていないと」 ふーふーと温かい吐息が触れてくる。 絹のような手触りが心地よくて、指のあいだを抜けてゆくのをなかなか止められない。なんだか不思議な誘いかけだったけど、撫でていいと言ってくれたのだから遠慮はしないで構わないか。 ふわんと漂う女の子の香りに包まれていると、マリーの瞳がこちらを向いた。「わ、分かったわ。分かりました!」 ぷあっと息継ぎをするように少女は身を離した。そして顔を赤くしたまま不思議なことを口にする。「そ、そんなにおかしいことではなかったわ。撫でて赤くなることだってあるみたい。どうやらもうひとつ勉強になってしまったようね」 やや早口でそう言われて、ぱちくりまばたきをする。 なぜか不機嫌そうに唇をとがらせながら見上げてくるマリーに、ふっと僕も笑う。「確かにそうだ。撫でられて顔が赤くなるのはおかしいことじゃないらしい」「でしょう? あなたもきっと分かるわ。こっちに頭を乗せなさい。そのままこちょこちょしてあげる」 え、その膝に? ちょっとばかりそれは気恥ずかしいけど……と思っていたところで、じっと見つめられていることに気づく。 ほんのりと頬を赤く染めたシャーリーは、気恥ずかしそうに指をもじもじしながらも瞳を離さないのだ。 さーっと血の気が引くね、お互いに。 慌ててお野菜を補充しに行ったのは言うまでもない。